電車旅行
15
俺は急いで着替えた。そして、二人を連れて、実家行きの電車に乗り込んだ。
荷物よし、ルンとポロよし、俺…………よし!!大丈夫そうだ。これで二時間、姿が狼にならなければ実家に帰れる!平日の特急電車は比較的、空いていた。
実家に帰るのは何年ぶりだろう……。ここ数年は全くと言っていいほど帰っていない。だんだん外の風景が変わって来た。窓の外を見ていた二人は、顔を見合わせて嬉しそうにしていた。
それにしても、伊沢さんが実家にいるというのは、どうゆう事なんだろう……。母親の携帯にかけてみても、実家に電話をしてみても、誰も出ない。留守なのか……?
こうして俺は、ルンとポロの事を親に話せないまま、実家に向かっていた。
窓の外を見ると、色々考えてしまう。二人を見て、両親はなんて言うだろうか?受け入れてもらえて、手を貸してもらえるだろうか?せめて、この狼の姿の対処法を教えてもらいたい。
今まで………こんな事一度も無かったのに…………ずっと、こんな姿……
窓に映った自分が、狼に見えた。
狼に見えた…………見えた…………
ギャー!!戻ってる!!
すると、二人が隣に来て毛を撫でて来た。
「やっぱりふさふさが落ち着く。僕、電車苦手なんだ……。」
ポロ…………酔ったのか?
「ポロは酔いやすいからね……。大丈夫?」
「寝てれば大丈夫。」
そう言って俺の腹の毛を触りながら、俺に寄りかかって寝始めた。
「ルンも寝てていいぞ。着いたら起こすから。」
そう言うと、ルンは
「ルンは寝ないよ。寝なくても大丈夫だもん。」
そう言っていたのに…………腹の毛には勝てなかった。いや、睡魔には勝てなかった。俺の腹の毛、睡眠導入力スゴくない?
それにしても…………重…………。あぁ…………なんか寄りかかってる所が濡れてる気がする……。ヨダレ…………ヨダレで毛が濡れるから!!違うよ、服が濡れる!!狼に慣れ過ぎてる自分が怖い!!
まぁいいや。まだまだ時間はある。俺も少し眠ろう。寝ている間に、客にバレて車掌が来ませんように。
少し…………夢を見た。
野山を駆け回っていると、誰かに呼ばれた。
「紅葉~!」
誰だ?俺はまだここで駆け回っていたいんだ!草と土の匂い……金木犀の花の匂いがする。…………懐かしい。
「紅葉~!」
「紅葉!!」
「電車止まったよ!?」
え…………!?あ!もう終点か!
「降りよう!」
ギリギリドアが閉まる前に降りた。えーと…………改札は…………改札はどうする!?
「紅葉~!トイレ~!」
「あ、はいはい。」
あ…………!気がつくと、人間に戻っていた。むしろ狼に戻ったと思ったのは、勘違いだったのか?
「紅葉~!僕、おしっこ漏れちゃうよ~!」
「あ~!待て待て!!」
トイレ、トイレに急げ!!急ぐあまり、ポロは改札に向かおうとしていた。
「ポロ、トイレこっち!ルンは?1人で行って来れるか?」
「うん。大丈夫!」
ここで、女子トイレと男子トイレに別れた。