へいたいさん
14
よし!荷物よし、ルンとポロよし、俺は…………よくない!!俺はまだ、狼のままだった。
歩いて行くしかないか?電車で二時間の距離を幼児が歩けるか?絶対無理だろ!じゃあ……犬ぞり?いや、それこそ無理だから!
昨日の夜は風呂に入っても、人間には戻らなかった。どうゆうタイミングで人間に戻るのか全くわからない……。仕方がない……ペットタクシーを手配するしかないか……。ペットって……。
そう思っていたら、ルンとポロのひそひそ話が聞こえて来た。本人達はひそひそ話のつもりでも、こっちはバリバリ聞こえる。
「やっとママに会えるね。」
「でも、会ってもママって言っちゃダメだよ?まだママじゃないからね。」
ん…………?それ、どうゆう事?
「お前達のママってどこにいるんだっけ?」
「葵はね、パパの家。」
「パパは誰?」
二人は俺を指差した。
「はぁ?どこ?どこにいんの?」
え…………もしかしてそれって…………
やだなぁ~やだなぁ~なんか感じるな~…………ってやつ!?怖いよ!怖い事言うなよ!!
「まだママじゃないってどうゆう事?」
「紅葉は心が読めるんだ……!」
「いや、フツーに聞こえてたから!」
あれは全然ひそひそ話って言わないから!
「パパとママは同級生だったんだって!」
「同級生?中学?高校?大学?」
二人は顔を見合わせて言った。
「わかんない。」
俺はポロを背中に乗せて、本棚に前足をかけた。
「一番右の大きいやつ2冊取ってくれ。」
卒業アルバムを取り出して来た。中学が高校の同級生なら、この中にいるはずだ。
「ここからママを探してください。どちらが早く見つけられるかな?はい、スタート!」
二人はすぐに卒業アルバムを開いて、探し始めた。
「あった!!見つけた!!」
見つけたのは、高校の卒業アルバムを見ていたルンの方だった。
誰だ…………?
ルンが指差したのは、伊沢 葵……。
伊沢さん…………葵って名前だったんだ……。伊沢さんとは、同じクラスになった事がある。でも、挨拶する程度だった。特に接点もなく、いいなと思っていても、話しかけられなかった。もう一度…………会えるなら会いたい…………。
「紅葉、全然変わらないね~!」
「ほんとだ~!」
そうか?10年以上経ってるんだぞ?さすがに変わってるだろ。
「変わってるかも……。」
ほら!そりゃそうだ!
「この時はまだ服着てたんだね。」
「は…………?服?…………ギャー!!」
何でこのタイミングで人間に戻るんだ?服!服!服着て出掛けるぞ!!
「紅葉、いつも裸だったんだね…………」
ポロ…………そんなに引かなくても!!
「へいたいさん?」
は?兵隊?
「ポロ、それを言うならヘンタイさんだよ!」
いやいや、ルン!そこしっかり訂正しないで!そんな目で見ないで!
「狼の姿で服着てたら逆におかしいだろ?」
「服着てるワンちゃんもいるよ?」
確かになぁ…………って俺は犬じゃない!!