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ホットケーキ


101


「あーちゃん、こっちこっち~!!」

「待って!どこ?」

「こっちこっち!!中も見て~!」

ルンとポロは葵を秘密基地に連れて来た。


秘密基地の仕上げには、ルンとポロに頼んで、壁に絵を描いてもらった。二人は家の中に、等身大くらいの俺と葵と、ルンとポロの絵を描いた。外はコスモスと、食べ物の絵だった。ルンとポロは、葵を秘密基地の隅々まで案内した。


「凄いね……。特に、中の家族の絵、きっと寂しくないね。」

そうか…………?俺はきっとこの絵を見たら、絶対に寂しくなって帰りたくなる。この絵が出来上がった時に、晋さんになんて残酷な事をしているんだろうと迷った。ルンとポロの手前、消すわけにもいかない。この絵はこのままここに飾られる事になった。


壁の絵を見ていた葵の隣に立って話しかけてみた。

「もう少し本物はカッコいいと思うんだけどな~?そう思わない?」

「そう?そっくりだよ?特に顔が歪んでる所とか、性格が巧く表現されてるよ。」

刺さる!刺さる!!あの晩から、葵はずっと怒っていた。


「葵も、絵より本物の方が少しだけ可愛いな~」

「少しなんだ。少しでも可愛いとか思うんだ……。」

「あ、そうゆう意味じゃなくて…………」

俺が弁解に困っていると、葵は俺の隣から、彼岸花の咲いている方へ行った。


「もう彼岸花が咲いてる。」

葵が彼岸花を見ていると、その様子を見たルンが訊いた。

「じゃあ、もうすぐお彼岸?」

「そうだね。もうすぐお彼岸だね。おはぎ作ってお墓参り行こうね。」

「秘密基地に置いて行ってもいい?」

葵は少し黙ると、立ち上がってルンに言った。


「作るの手伝ってくれる?」

「うん!ルン、手伝う!」

「僕も!僕も手伝う!」

そう言って三人は山を降りて行った。俺は最後に、ドアを閉めて、仕掛けで鍵をかけた。


それから数日後、お彼岸の前日。


「台風18号の接近により、お彼岸は大荒れの天気になるでしょう。今後の情報に注意してください。」

テレビのニュースは大型台風の情報でもちきりだった。


「野菜や稲…………大丈夫かな?」

テレビの音を聞きながら、食器を片付けていた葵が、ニュースを聞いて台風を心配していた。俺は、山に建てた秘密基地が心配だった。ついこの前、仕上げにルンとポロがペンキで絵を描いたばかりだった。雨や風でダメにならないといいんだが……。


「ビニールシートとか、かけた方がいいかな?」

「ビニールシートは意味ないんじゃない?一応、暴風ネットは設置してみたけど……ここまで大きい台風は初めてだから心配……。」

葵と、あちこちの場所に暴風ネットを張りに行っていて、一度も秘密基地には行けていない。


それにしても珍しい……。心配性の俺より、葵が不安そうにしている。


明け方に台風が上陸する。今夜は大荒れになりそうだ。


「ルンとポロが不安にならないように、今日は早く寝よう。」

「そうだね。ポロはもう不安そうにしてたよ。」

ルンとポロは台風の影響で、学校を早めに帰って来た。


「何の音?ゴロゴロいってる。雷?」

「いや、多分、川の石が流される音だ。」

「石?」

川が雨の影響で増水して、大きな石をも押し流す濁流になる。台風の時は川が近いせいか、ゴロゴロ音が聞こえて来る。それが、ポロには不安になるらしい。


「ルン、ポロ、今日はおやつにホットケーキ作ろうか?」

「作る~!」

「僕も!僕も!」

ルンは嬉しそうに自分のエプロンをつけていた。葵とお揃いの、ウサギのエプロンだ。ポロもすぐに椅子を用意して、手を洗っていた。


葵は子供達の不安を消すために、おやつ作りを始めた。

「卵はルンが割る!」

「ルンだと殻が入るから僕がやる!」

「できるもん!あーちゃんにやり方ちゃんと教わったもん!」

すぐに不安なんて忘れて、二人で喧嘩していた。


「あ!ほら~!」

どうやらルンは卵を割るのを失敗してしまったようだ。

「いいよ、いいよ。少し殻入っちゃったけど、これくらいなら取れるから。」


しばらくすると、ホットケーキの甘い香りが家中に広かった。その匂いは何だか安心した。ホットケーキの匂いって…………幸せを感じるんだな……。


外はバケツをひっくり返したような大雨だった。


それでも、家の中は、幸せの匂いでいっぱいだった。


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