やって来た
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俺は遠くから、二人が紅葉の葉で遊んでいる所を見ていた。
それはまるで、落ち葉と踊っているようだった。
「すごーい!葉っぱがいっぱい!」
遠くで、子供の笑い声が聞こえた。
めくるめく季節の中で、俺達はまるで、ダンスを踊っているようだった。
春は、舞い散る花びらと共に。
梅雨は、雨と新緑の若葉と共に。
夏は、ホタルの光と川の水しぶきと共に。
秋は、色づいた落ち葉と共に。
冬は、真っ白な雪と共に。
俺達は自然と踊っていた。自然と笑っていた。
そんな、幸せな時間だった。
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一匹狼というのは、一匹でしか生きられないから一匹なのか?それとも、一匹でいた方がメリットがあるから一匹狼なのか?わからない。
わからない…………。でも、俺はこの秘密を守る為に、独りになった。仕事も辞め、実家に帰ろうと考えていた。
「どうしたものか……。」
俺は独り、鏡を見て呟いた。
「人間に…………戻らない。」
鏡には、銀色の立派な毛並みの、野性的な狼の姿が映っていた。俺は…………狼男だ。満月を見ると変身するとか、暴れ出すとか、そんな事はない。風邪を引いた時や、落ち込んだ時ぐらいしか、狼の姿になる事はなかった。しかし、最近人間に戻らない。
どうしたものか……。これじゃ、買い物はおろか外出すらできない……。手袋買いに行ったらリアルに捕まるコースだ。
そもそもどうやって実家に帰ればいいんだ?もし、捕まったら動物園か?それとも野生に返される?いや、返されても困るだろ!人間が野生に返されて生きて行けるか?無理だ!ガチサバイバルだぞ!?そんなの勘弁してくれ~!!
そこへ、インターホンが鳴った。
誰だ?来客なんか無いはず?
ピンポーン!ピンポーン!と、何度も何度も鳴り止まないインターホンに、仕方なくパソコンデスクの椅子を頭で押して運んだ。そして、椅子の上に乗り、インターホンのボタンを押した。
インターホンの画面には、誰も映っていなかった。…………イタズラか?
そう思って黙っていると、子供の声が聞こえて来た。
「出ないね~!いないのかな?」
「留守じゃないよ!きっと居留守ってやつだよ!」
子供…………?なんだ。子供のいたずらか。
「クレハ~!開けてよ~!」
「はぁ!?」
思わず声を出してしまった。
「いた~!くれはいたよ!」
え?知り合い?誰の子供だ?親戚にいたか?いや、全然思い当たらない。
「クレハ~!早く~!早く開けてよ~!」
「誰だ……?」
「う……うぇぇえええん!」
子供が泣き出した。こ、ここで泣くか!?でも、この姿じゃ開けられない……。
「クレハ~開けてよ~!ポロが泣いてるよ~!」
「うぇぇえええん!!」
そう言われても、こんな子供達は知らない……!いや、待てよ……?子供ならこの姿を見て逃げて行くかもしれない!開けて姿を見せれば怖がって逃げて帰るはず!!
そう安易に考え、俺は解錠のボタンを押した。そして、俺が頭で椅子を玄関まで運んでいるうちに、すぐにパタパタパタと軽い足音と子供の声が聞こえて来た。