じゃがいもで飢饉回避
(また農業だよ)
(苦情が来るようなのは止めてよ?)
(今回は大丈夫さ)
「困った。冷害で小麦が不作だ」
父親は頭を抱える。
「このままでは食べ物が足りなくなってしまう」
「さんぽしきのうぎょうではたりないのでしゅか?」
ナーシュは不思議に思った。三圃式農業で改善した筈ではなかったか。
「ああ、あれは領地の南の方だったんだよ。冷害は北の方で起きているんだ」
「そうなんでしゅか……」
ナーシュは早速ナビゲータースキルに問い合わせた。
『冷害に強い作物は無いか?』
『じゃがいもがあります。寒冷地でも栽培可能な芋です』
(定番だよね)
ナビゲータースキルの正体は呟いた。
(北の方の国で主食になってるくらいだものね)
「とうしゃま、じゃがいもをつくればよいのでしゅ」
「じゃがいも? それはどんな作物なんだい?」
「すずしいばしょでもつくれるおいもでしゅ」
「そうか! 涼しい場所でも作れる芋か!」
父親は立ち上がる。
「おい! 北の農民を呼べ!」
「はい、北の農民でございます」
「じゃがいもだ! じゃがいもを栽培するのだ!」
「かしこまりました」
翌日。北の農民が籠一杯のじゃがいもを携えてやって来た。
「こんなにたくさん獲れました」
「おお! 素晴らしい!」
喜んだのも束の間。父親は北の農民の言葉で喜びが吹き飛んでしまう。
「じゃがいもには毒が有るので食べられません」
「毒だって!?」
『毒? 毒って何だ?』
『じゃがいもの芽や光に当たって青くなった皮の部分にはアルカロイド系の毒が含まれます』
『いつも食べてたけど、そんなの知らないぞ? どうすればいいんだ?』
『毒を含む部分、つまり芽や青くなった部分を取り除けば食べられます』
「とうしゃま、めやあおくなったところをとればいいのでしゅ」
「そうなのか! 北の農民も聞いたな? 芽や青くなった所を取って食べるのだ!」
「そうでございましたか。早速食べてみましょう」
北の農民はじゃがバターをカバンから取り出して食べる。
ナーシュが物欲しそうにするので北の農民はナーシュにも取り出して渡した。
「おいしゅうございます」
「おお! そうか! これで食べ物の心配が無くなったな!」
「はい、それもこれもナーシュ様がじゃがいもを教えてくださったお陰です。ナーシュ様には感謝するばかりでございます」
ナーシュも鼻高々である。
(じゃがいもを知らない筈の父親がどうしてあれで納得するのよ?)
(異世界なんだから南米原産なんて言えないでしょ?)
(ま、まあ、そうね。でももっと他に無い?)
(ナス科の多年草なんて言われても嬉しくないでしょ)
(ん、んー……。まあ、それはともかくとして、翌日って何?)
(そうでもしなきゃ、目の前の飢饉には間に合わないだろ?)
(……そうだけど、あのじゃがいもはどこから出て来たの?)
(市場で買ったものさ)
(有るんじゃないの……)
(そうとも言う)
(それで、買い占めでもしたの?)
(籠一杯を見せればたくさん有るように見えるんだから、あれだけだよ)
(……まあ、そうね。でもじゃがバターは無くない?)
(美味しいそうに食べてるからいいんじゃない?)
(ん、そ、そうね……)