ローストチキン
(村民役から苦情が来てるわよ。地べたに寝たら擬体のメンテナンスが大変だろって)
(……それはすまなかった)
(村民役に言いなさいよ……)
(善処しよう)
(それで次は?)
(苦情が来ないように、汚れがそうでもない料理と行こう)
「今日はチキン祭りだ」
「どんなおまちゅりなんでしゅか?」
「みんなでローストチキンを作って食べるんだ」
父親の顔が曇る。
「でも、ローストチキンが美味しくないんだよ。焦げてたり、生焼けだったりしてね」
「どうちてでしゅか?」
「説明するより、見た方が早いだろう」
父親は使用人と一緒に焚き火を起こし、用意していた一羽丸々のチキンを投げ入れた。
「これで後は焼けるのを待つだけだ」
ナーシュは驚いた。何かで包むこともなくチキンが投入されたのだ。これでは熾火に当たる部分が焦げ、火の当たりの悪い所は生焼けになってしまうに違いない。
「とうしゃま、どうちてチキンをなげいれたのでしゅか?」
「どうしてって、他に焼き方は無いだろう?」
「ありましゅよ」
「どんな焼き方が有るんだい?」
「ひのうえで、くるくるまわしながらやけばいいんでしゅ」
「回しながらだって?」
父親は驚いた。使用人に尋ねる。
「おい、チキンを回しながら焼くなんて知っていたか?」
「いえ、存じませんでした」
「ならば早速やってみるのだ!」
「かしこまりました」
使用人は先端がUの字になった金具を焚き火の傍に立て、片端がL字に二回曲げられてハンドルが付けられた鉄棒にチキンを突き刺して先の金具に引っ掛けた。ハンドルを回せばチキンも回る。
「おお! これなら満遍なく火が通るぞ!」「ナーシュ様はなんて知恵者なんだ」
父親も使用人も口々にナーシュを讃えた。ナーシュも鼻高々だ。
しかし、焼けるまでには時間が掛かる。焼けるまで父親とナーシュはテーブルで待つことにした。
ところが椅子に座った途端、ナーシュのお腹が鳴った。
「ははは、待ちきれないよな」
「こんなこともあろうかと、オーブンで焼いていたチキンがちょうど焼けましたよ」
母親が軽やかな足取りでローストチキンをテーブルに置いた。
「さあ、これを食べながら待とう」
「あい」
ナーシュも、父親も、使用人もにこにこ顔。みんなでチキンに舌鼓を打った。
(ねえ、火にくべたチキンと鉄棒を突き刺したチキンがそのままよ?)
(うーん……。食べ物を粗末にしてしまったな……。反省だ)
(そうじゃなくて、焼き方関係なくない?)
(あいつが気付いてないからいいのさ)
(……そうね)