入学
(また6年飛ばして14歳。ステータスは122880だ)
(300に達したら超人クラスの世界じゃデタラメな数字よね)
(もう無敵だね)
ナーシュの父親は言う。
「ナーシュ、この国の貴族は14歳になったら国立学園で3年間学ぶことになっている」
「判りました」
田舎の単調な暮らしに飽きていたナーシュは素直に頷いた。
そして入学の日。学園に初めて足を踏み入れたナーシュの前に女の子が立ち塞がる。
「あなたが噂の転校生ね!」
「え? いや、俺は新入生だけど……」
微かに小首を傾げる女の子。
「あ、あなたが噂の転校生ね!」
何故か同じ台詞を言い直した。
「だから俺は新入生……」
「あ、あ、あなたが噂の転校生ね!!」
女の子は顔を真っ赤にして、ごり押しせんとばかりに声を張り上げた。
「……いいよもう、それで」
ナーシュがげんなりした声で答えると、女の子はうんうんと頷く。
「随分生意気らしいけど、わたしの目の黒い内は好き勝手させないんだからね!」
「ええー」
目の前の女の子が理解できないナーシュである。
(何なの? この茶番。あれじゃ、どう見ても頭のおかしい子よね?)
(そ、そう……かも?)
(とにかく、止めさせるわよ。スイッチをポチッとな)
その時、女の子の上をカラスが飛び過ぎた。
ポタッ。何かが頭に当たった感触に、反射的に手を頭にやる少女。湿って粘ついた何かが手に触れる。
一体何がと、まじまじと手を見やる。
「きゃあああああ!」
猛烈ダッシュであった。一刻も早く頭と手に付いたカラスの糞を洗い落とさなければと。
すると、その場に居た学生達がざわめく。「すげぇ、新入生にして生徒会長のヒロインに入学早々目を付けられるなんて」「しかもそのヒロインを退けたぞ」。
そしてナーシュは「え? 俺また何かやっちゃったの?」と首を傾げるのだった。
(ちょっと……、新入生が生徒会長をするってあり得ないでしょ?)
(あ……、うっかりしてたよ)
(うっかりって……)