ギルド長
前置きの登場人物については2つ前のエピソード「冒険者ギルドへ」を参照してください。
(ちょっと、噛ませ犬役さん。芝居が臭すぎます)
(それは、ほら……、体型が太いから勝手が違って……)
(芝居の臭さに体型は関係ないと思います。折角、し慣れた役だと思ってスカウトしたのに……)
(あ、あれだ。前と違って生身じゃないから……)
(生身だと死んじゃうじゃないですか。以前には死にかけましたよね? 年下で新婚の奥さんを悲しませたいんですか?)
(そ、それは絶対に無い)
(そうでしょう? その奥さんも噛ませ犬役さんの活躍を期待して待ってるんじゃないんですか?)
(う、うひ……)
(突然何ですか? その変な笑いは?)
(いや、すまん。あいつが「お帰りなさい」って迎えてくれるのを思い出したらな……。うひひ)
(うわー、惚気がうざくてうるさい)
(ほっとけ)
(とにかく、今日は昨日の続きですよ)
「わしがギルド長じゃっ!」
「あ、ギルド長」
冒険者ギルドへの登録を済ませたナーシュの許にギルド長が現れた。
「わしがギルド長じゃっ!」
「ええっ」
受付嬢が驚きとも困惑ともつかない声を漏らした。
ナーシュは疑問に思う。受付嬢はギルド長の言わんとするところを判っているかのようだ。
「あの……、ギルド長さんは何て?」
「あ、あのね! ナーシュ君のステータスがとっても凄いから、ギルド長のテストに合格したら飛び級させたいそうよ!」
ギルドのランクはFから始まるが、ギルド長に認められればBから始めることが可能だと受付嬢は説明する。
ナーシュは逡巡したがテストを受けることにした。
「解りました。受けます」
「わしがギルド長じゃっ!」
「……こっちに来てって」
受付嬢が少し目を吊り上げ、ギルド長を押すようにしながらギルドの奥へ行く。行き着いたのは練習場だ。
「わしがギルド長じゃっ!」
「えーと、ギルド長が戦ってナーシュ君の実力を計るそうよ」
受付嬢は上目遣いに何かをそらんじるように言った。
「解りました」
木製の剣を持って立ち合う。ナーシュの6年間の努力は剣術の腕も上げていて、ギルド長の剣をあっさり弾き飛ばしてしまう。
「わしがギルド長じゃっ!」
「……合格だって。ナ、ナーシュ君は今からBランクよ! ほんとに凄いわ! こんなこと、十年に一度あるかどうかよ!」
十年に一度と聞いて、ナーシュも鼻高々だ。
「わしがギルド長じゃっ!」
「……ほんとはSランクでもいいそうだけど、規約でBからしか駄目なの。ごめんなさいね」
「いえ、ありがとうございます」
Sランクと聞いて、ナーシュは益々鼻高々だ。そして、いきなりSランクから始めるのも良いが、目立たない感じのBランクを悪くないと思うナーシュであった。
(……誰よ、あの隠居爺を連れてきたのは!? 台詞が一つしか入ってないじゃないの!)
(さ、さあ、誰だったかな?)
(殴るわよ?)
(ごめんなさい)




