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王女様との邂逅


私とアズールを2人きりにしないで!という声が聞こえてきそうな表情でこちらを見てくるビアンカに心の中で謝りつつ、私はグレイシュ様にお屋敷の中を案内してもらっていた。


「そういえば、あなたのことはなんと呼べばいいのかしら。」

「…そうですね。では、私のことはラロンドとお呼びください。」


いくらなんでも王女様にあたるグレイシュ様に名前で呼んでもらうわけにはいかない。

そう思って答えると、グレイシュ様は不満げにこちらを見てくる。


「?…グレイシュ様?」

「あのお嬢様もアズールもあなたのことを名前で呼んでるのに、私だけ姓で呼べというのねあなたは。」

「えっ?…い、いえ!そんなつもりは…!」


ビアンカはともかくアズールは勝手に名前で呼んでるだけだ!とも言いにくいために慌てて否定すると、グレイシュ様はくすくすと楽しげに笑みをこぼす。


「あなたって本当に面白い。遊びがいのある騎士様ね。」

「…グレイシュ様」

「ふふっ。そんなに睨まないでちょうだい。」


遊びがい。つまりからかっただけ。

じとーっとグレイシュ様を睨むが、グレイシュ様の楽しげな笑顔に怒る気は失せてしまった。


「からかってしまったお詫びに、そうね……私達、友達になりましょう」

「……はい?」


聞き間違い、ではないんだと思う。

その証拠になるかは微妙だが、グレイシュ様は私の返事を今か今かと待っている様子だ。


「ぁ…私は、グレイシュ様とは身分が違います。本日はビアンカの付き添いとして来ていますが、本来ならばこのような場所に立ち入ることは許されないのです。…父には実力があります。だからこそ王国騎士団団長として、国王様のお側におりますが、私にはまだそこまでの実力はないのです。ですので、とても嬉しいお言葉ですが、私のようなものがグレイシュ様の友になど…」

「私、そんなに偉い人じゃないわ。」


私の言葉を途中で遮ったグレイシュ様は、先程までの楽しげな様子から一変。

なにか葛藤を抱えているかのような表情で私のことをまっすぐ見ていた。


「…私はね、出来損ないなの。アズールが優秀な子供で、私は出がらし。他国との交流の道具にもなれない、お飾りの王女。……刺繍よりも剣技が好き。ピアノやヴァイオリンより乗馬が好き。…でも、どうせ剣技も乗馬も、アズールに劣るんだからやるだけ無駄。お飾りの王女は王女らしく、刺繍やピアノやヴァイオリンだけやっていなさい。…母さまによく言われる言葉よ。」

「グレイシュ様…」

「私の周りでは基本的にアズールしか必要とされていないの。お飾りの王女なんて居ても居なくてもどっちでもいいの。」

「そんな悲しいこと、言わないでください!!」


思わずグレイシュ様の肩を掴んでそう叫ぶと、グレイシュ様は驚いた様子で私の方を見る。

大きい声を出して怯えさせてしまったかもしれない。でも、こんなに可憐で可愛らしい王女様がそんなことを言うなんて駄目だと思った。


「私は国王様の家庭のことは知りません。わかりません。…でも、こんなにも美しく、可憐で、高貴な佇まいをしているあなたがお飾りとして扱われているとは思えない。言葉はきつい言い方をされているのかもしれませんが、お母上があなたを愛していないわけが無いでしょう!母の愛を、子供が否定してどうするんですか!!」


そこまで勢いで叫んだところで気づいたが、私相当失礼じゃないか?

父が王国騎士団長というだけの私が王女様相手にお説教なんて、無礼極まりない。


現に、建物内で仕事をしていたのであろう使用人らしき人たちがチラチラとこちらを見てくる。


そんな使用人の様子、こちらをみるグレイシュ様の表情からして、私が盛大にやらかしたのはよくわかった。

しかし、すでに口から出てしまった言葉を取り戻す術などないのだから、私にできることは1つしかない。


「…ぶ…無礼を働きまして、申し訳ありませんでした!いかなる処罰でも甘んじて受けますが、どうかビアンカや父様にはご内密に…!!」


私にできること。それは誠意ある謝罪だけだ。

マントを踏まないように気をつけつつその場にひざまずいて謝ると、グレイシュ様は「……そうね。じゃあ…」と言って私の肩にそっと手を添える。


「私をお飾りの王女様から、騎士の友人がいる王女様にしてくれるかしら。」

「……わかりました。貴女がそれを望むのでしたら。」


思わず見上げたその笑みは先程までとは違い、どことなくふてぶてしい。

まるで、必死に練ったいたずらが成功した時の子供のような…


(…やられたっ!!)


グレイシュ様は私に友達という関係を了承させるがために1芝居うったってことだ。

そこまでするのか…と半ば呆然としていると、グレイシュ様は嬉しそうに私の手をにぎる。


「さあ、中庭に戻りましょうか。…あぁ、そうだ。せっかく友人になったのだから、私のことはイーシュと呼んで頂戴。」

「…わ、かりました……イーシュ様。」

「……様?」

「…分かりました。分かりましたから、中庭に戻りましょう。イーシュ。」



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