顔がよすぎると逆にしんどい時がある
「ようこそいらっしゃいました、ビアンカ様、カヴァリエ様。ささ、こちらへどうぞ。奥でアズール様と国王様がお待ちです。」
たどり着いたのは大きなお城ではなく、そのお城とは別に立てられている豪邸だった。
いわゆる別宅というやつらしいそこにたどり着くと、王室づかえと思わしき妙齢の執事の人が出迎えてくれ、どんどん建物の奥へと案内される。
「…す、すごいねビアンカ!見てあの甲冑!!持ってるモーニングスターとかすごくない!?絶対あれ強いよ!1回でいいから使ってみたいよね!(小声)」
「落ち着きなさい。…カヴァリエがああいう武器とか装備?みたいなのが好きなのは知ってるけど、ここRPGじゃないから。」
そう。建物の外観もすごかったがなにより私が興奮してしまっているのは内観。
まさしく、中世ヨーロッパとかをベースにした世界観のRPGでよく見る典型的な豪邸の内観なのだ。飾られている甲冑に持たせてある武器も種類豊富で、先程あげたモーニングスター以外にもソードブレイカーやショーテルなどバラエティにとんだ品揃え。
ファンタジー系RPGきっかけで剣道を始めたくらいに剣に惹かれていた私はこういう武器とかが大好きだ。ビアンカが三度の飯よりホモが好きだというのなら、私は三度の飯より武器が好き、というやつ。
私が今使っているのは子供でも扱えるようにと小ぶりに作られたサーベルなのだが、せっかくこんなファンタジーな世界に転生しているんだ。
いつかはもっと違う武器を使ってみたいという密かな野望を抱いている。
「やっぱりショーテルがいいな…」
「カヴァリエ。私の注意聞いてた?」
思わずポツリとこぼした独り言にビアンカが目を吊り上げるため、とっさに手で口元を覆ってから視線を前方に視線を向けると、こちらをほほえましそうに見ている執事さんと目が合ってしまった。
「カヴァリエ様は武器がお好きなのですね。そういうところやはり、年相応の少年といった感じですな。」
「ほわ…」
完璧なお嬢様のビアンカに付き添う護衛としては私にもある程度の素養が要求されるはず。
それなのにこんな態度を見せてしまったというのは、完全にやらかし案件な気がしてきた。
(うわこれ…あなたのような方をアズール様に会わせるわけにはいきませんみたいに言われちゃうんじゃない!?)
「いや、あの…今のは、その…」
なんとかして挽回しないとと思うのだがとてもじゃないけど言い訳1つ浮かばず私はあたふたするだけ。
ビアンカも心配そうにこちらを見てくれているが、どうフォローしていいのか分からないのだろう。
2人して顔を青くしていると、執事さんがクスクスと楽し気に笑ってから扉に手をかけた。
「そう慌てないでください。ただ、アズール様も武器などが好きなので、よいお友達になれそうだと思っただけだったのです。…さあ、こちらの部屋でアズール様と国王様がお待ちです。どうぞ。」
「「!?」」
執事さんの言葉に安心したのもつかの間。どうぞ、といってすぐさま扉が開かれてしまったため、私とビアンカは軽くパニック状態だ。
というか心の準備が全然できてなかった。
扉が開かれた先には豪華な部屋が広がっているかと思っていたのだが、そんな予想に反してそこに広がっていたのはきれいに整備された中庭。
そんな庭の奥に作られている屋根付きのテーブルにはたくさんのお菓子が並べられ、そのテーブルの近くにある白いベンチには線の細い長身の男性と、その男性にどこか似た風貌の少年が座っていた。
鮮やかな緑色の上で輝く真っ白なベンチ、そこに座るイケメン男性と美少年というゲームのスチルのような光景に一瞬我を忘れてしまう。
特にその美少年…おそらく同年代と思われるその少年は私とビアンカの方に視線を向けるとふわりと穏やかに微笑んだ。
星をちりばめたかのようにキラキラときらめくブロンドの髪。
若葉を彷彿とさせる鮮やかな緑色の瞳は、日の光を受けて宝石のように輝き、くっきりとした二重と髪と同じ色の長いまつ毛による装飾がさらにその美しさを際立たせていた。
陶磁器のように白く滑らかな肌にほんのりと赤く染まっている頬は、ビスクドールもびっくりの美しさだ。
(うわっ…顔がいい……)
そんな美少年の微笑みの威力たるや。
一瞬頭の中が真っ白になったもののすぐに我に返った私は、とりあえず挨拶をしなければと思ってビアンカの方に視線を向けるが、ビアンカは耳まで真っ赤に染めて硬直していた。
先程までのアズールルートを警戒していたビアンカはどこに行ったのか、顔を真っ赤に染め上げてその少年を見つめる姿はまさしく恋する乙女そのものだ。
「ビアンカ、挨拶をしないと……ビアンカ?ビアンカ!?」
(駄目だ、反応がない。ただの屍のようだ。)
本来ならば招待された本人であるビアンカが挨拶をすべきところ。しかしそのビアンカが何もできないならばここは私がフォローするしかないだろ。
「ほ、本日は招待いただきありがとうございます。私はビアンカ嬢の警護兼付き添いとして参りましたカヴァリエ・ラロンドと申します。そしてこちらにおりますのがビアンカ・ネヴェリダなのですが、その…お二方の見目の麗しさに心を奪われてしまったようで…」
我ながら意味の分からない言い訳だったと思うが、おそらくビアンカの様子からしてそれは事実。
転生前の林檎だった時からビアンカはイケメンに弱かったようで、よく「はぁ~推しの顔がよすぎて逆にしんどい」と謎の嘆きをこぼしていたのを覚えている。
私の意味の分からない言い訳に何を思われたのかはわからないが、相手の気分を害すような発言はしなかったはずだ。
そう思って視線を前方に向けると、美少年は何が面白かったのかクスクスと笑いながら私とビアンカの方に近づいてくる。そのまま片方の手で笑う口元を抑えながら、もう片方の手を私の前に差し出す。
「初めまして。知っているかと思うが、僕の名前はアズール・リ・ワンドゥ。将来的に君が仕えるべき相手となる男だ。よろしくね。」
「?…よ、よろしくお願いします?」