夢女のトラウマ?カヴァリエルート
ビアンカとの会話を終えた私は、家を去っていくビアンカとアローワさんを見送っていた。
「すまないなカヴァリエ。お前だって女の子なのに、別の女の子を守る騎士の役目をこんな幼い日からすることになって。」
「別に気にしてません。むしろ、ラロンド家の長子として誇らしいことではないですか。それに私は男ですよ。」
結局アローワさんからの頼みを断りきれなかったらしく、私はビアンカが社交場に出かける時の護衛兼お目付け役となった。
父様はとても申し訳なさそうにそう言うが、私としては特に何も気にすることはない。
むしろビアンカと定期的に会うことができる立ち位置になったため、ティアラモルテの情報を聞くことができるのは非常に助かる。
ましてや2人で「誰も死なないルート」を目指すのだから、ビアンカと連絡が取れないほうが困ってしまうくらいだ。
そういう意味を込めて気にしないでと伝えたのだが、父様はそれでも申し訳無さそうな表情を隠すことなく私を見下ろす。
「嫌だと思ったらすぐに辞めてもいいんだぞ。」
「ふふふ、大丈夫ですよ。私はラロンド家が長子。騎士団長の息子ですから。」
夕食までの時間に家庭教師も何も入っていないため自室に戻った私は、先程林檎…ビアンカから聞いたティアラモルテの情報を紙に書き出すことにした。
先程の時間ではあまりにも短く全てを聞けたわけではないが、とりあえず優先して自分のルートの情報だけは聞くことができたのだ。それを寝たら忘れましたなんて笑えない。
「まずはビアンカとは違うライバルが出てくるって話だったな。」
ビアンカから聞いた話だと、カヴァリエという騎士のルートではビアンカの他にもう1人ライバルとなるお嬢様が出てくるという。
そのお嬢様と主人公はカヴァリエに思いを寄せてはいるもののお互いを良きライバルとして認め合っているらしい。そしてビアンカ以外の女性とは深く関わったことのなかったカヴァリエにとっては2人とも特別な女の子になるという。
どのエンディングでもビアンカは自分の価値を高めるための所有物である騎士が他の女性に惹かれていくことに腹を立て、彼女たちとカヴァリエの仲をことごとく邪魔することで軽犯罪を多く重ねていくというのだ。
「でもって、それまでの行為を公にされたビアンカは婚約破棄されて実家にも捨てられて、カヴァリエを逆恨みするんだっけ。で、カヴァリエを殺そうとナイフを持って襲いかかってくる…と。」
グッドエンドでは主人公と結ばれたカヴァリエがビアンカのナイフを強く弾き飛ばしたことで計画は頓挫し、殺害未遂で捕まったビアンカは獄中自殺という道をたどってしまう。
ノーマルエンドではビアンカのナイフは主人公を狙い、それを庇って傷を負ったカヴァリエは片足を切断することになる。それだけでなく、主人公を守るためにカヴァリエは自身の手でビアンカを殺害することになるというのだ。
そして何よりも最悪なのがバッドエンド。カヴァリエとライバルであるお嬢様が結ばれるルートでは、ビアンカ死亡の流れとカヴァリエが片足を失う流れはノーマルエンドと同様であるが。ノーマルエンドと異なるのは、主人公が自分のことを忘れてほしくないがために、カヴァリエの目の前で自殺をするということ。
ビアンカいわく、カヴァリエルートはティアラモルテの中でも最も死人が多く、たくさんの夢女子にトラウマを植え付けたという。
「……カヴァリエ、女難の相出すぎじゃない?」
短時間でとりあえず聞きかじった自分のルートの情報を整理しながら紙に書き出してみての感想はその1言に尽きた。
ビアンカから聞いた話だとカヴァリエと主人公の正式な出会いは、ティアラモルテの舞台となる学園に入学してから1ヶ月が経った時。
それまではビアンカが主人公をいじめているという事実は知っていたものの何も対処をしていなかったカヴァリエが、ビアンカのあまりにもな仕打ちを目撃し、ビアンカが立ち去った後に慰めることから始まるらしい。
少なくとも今のビアンカが主人公をいじめることはありえないから、私から関わろうとしない限り主人公と関わることは無いだろう。
「少なくともカヴァリエルートに入らないようにするに越したことはない。けど、ビアンカは…」
カヴァリエルートに入らなければ私は安泰だが、ビアンカはそうもいかない。
他のルートは詳しく聞けていないが、ビアンカが死んでしまうパターンはどの攻略対象でもあるというのだ。
(学園編入まではあと5年。それまでに私にできることをやろう。…ビアンカを守る騎士として)
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ビアンカとの出会いから2年。
ビアンカとは会えていないが手紙などでやり取りをしていたため、お互いの状況については把握ができていた。
あれ以降最高のお嬢様となって国王様のご子息への謁見を許されるようにと教育をつまされたらしいビアンカは、今ではダンス・マナー・刺繍・バイオリンを完璧にこなすお嬢様として有名らしい。
そしてとうとう、ビアンカの両親が待ち望んでいた、国王様のご子息への謁見を許されたという。
「カヴァリエ、準備はできているか?」
「少しお待ち下さい、父様。」
そして、今回謁見の際のビアンカの護衛兼お守りを務める約束になっていた私も同行するため、国王様のお城に向かう準備をしていたのだ。
すべての準備が完了したとは思っているが国王様に失礼のないようにと、家を出る前に再度鏡の前で身だしなみを確認する。
「靴よし。服よし。手袋よし。マントよし。」
今回のために仕立ててもらった黒い革のブーツに、モスグリーンを貴重とした洋服。剣を握る手が滑らないようにと愛用しているチャコールグレーの手袋に、右半身を覆うチャコールグレーのマント。
それらに汚れやほつれが無いことを確認してからマントを一度取り外して再度鏡を確認する。
「剣よし。髪よし。耳よし。尻尾よし。」
愛用の剣に刃こぼれが無いこと、少し伸びたためにまとめていた髪に乱れが無いこと。
そして、先月やっとしまえるようになった耳と尻尾が現れていないことを確認してからマントを身に着ける。
「…よし!父様、準備できました。」