第4話 俺TUEEEらしい。(新)
第4話『ゴブリン』(旧サブタイトル)なんてなかった。
家事をしていた母フェンリが、神戦が終わった事に気付き、リビングにいる二人に駆け寄る。
神戦をしている間、マナフィールドに居る間の者はどうなっているのかというと、二人が向い合せに手を翳し合いっている状態で、淡い光に包まれて、まるで時が止まっているかのように二人は動かないでいるのだ。その光には誰も干渉する事が出来ない為、終わりまで只、待つしかない。その、淡い光が粒子の様に消えだした為に、フェンリは神戦が終わったという事に気付いたのだ。
「アマロ、ヴァーダお疲れ様。どうだったの?」
母さんが俺と父さんに尋ねる。
ダン!
俺と母さんは、父さんが机を両手に拳を作って叩いた事で一瞬、ビクっとする。
(勝ってしまったのは間違いだったか?しかし、エイフィのあんな姿を見たくはなかったのだから仕方がなかったんだ)
因みにエイフィは、マナデュエルと共にカードとなり、実体化は今も消えている。
(・・・この世界の魔法の基準が分からないけど、この年で中級魔法が使えるなら十分に異常な強さだとは思う。赤ん坊の頃から物心が付いているのはアドバンテージが大きい。同じぐらいの年齢の中では俺TUEEEしているのは間違いないとは思う。只、その分、言葉が無駄に覚えるのが大変だったが)
魔法もユニットと同じで、マナカードのコスト、つまりTCG化された時で初級~上級が決まる。
初級魔法 コスト1~5
中級魔法 コスト6~10
上級魔法 コスト11~15
超級魔法 コスト16~20
となっている。超級魔法を扱える者は数える程しかいないらしい。
後、今更だが、この世界の言葉は日本語ではない。ハングルの様な英字の様なやつだ。
ワナワナと机に顔を伏せ、体を震わせるヴァーダ。
「フェンリ!俺達の息子は天才だ!」
「ふえ!?」
急に立ち上がり、ガシッと両肩を掴む、体を揺らす。
「ちょ、ちょっと落ち着いて。説明を・・・」
「俺達の息子は天才なんだ!」
まだ、ゆっさゆっさとフェンリの体を揺らす。
「落ち着きなさい」
「あいた!」
ベシッっとフェンリがヴァーダの頭に強めのチョップを打つ。
「す、すまない」
少し、バツが悪そうに謝る。
「それで?どうしたの?」
呆れた様に聞き直す。
「俺が・・・負けたんだ!」
「・・・え?そりゃ、アマロは初めて何だから、教えながら負けてあげたんでしょ?」
フェンリは何をそんなに興奮する必要があるのか分からない様子だ。
「・・・いや、父さんの強さを教えてやろうと思ってな・・・」
「・・・は?」
ジトッと睨む。
「え?でも手加減したんでしょ?」
「・・・最初はそのつもりだった。でもな、アマロが自信ありげに俺に勝ったら言う事を聞いてくれと調子に乗る者だから、お灸をすえてやろうかと途中から弓も装備してフィールド魔法も使って本気でやったんだが・・・」
悔しそうにするヴァーダの顔を見て、フェンリが気付く。
「え・・・?って事は!本気を出した貴方が負けたの!?村一番に強いのに!?」
母さんは驚愕して、俺を見る。
「アハハハ・・・・でも、父さんの本気も途中からだったから勝てたんだよ。最初からだったら多分、負けていたよ」
苦笑い。
「たぶん!?信じられない!?最初からやっても勝てる可能性が十分にあるってこの子思っているわ!?」
母さんは口に手を添えて驚いている。
(あー・・・。まぁ思ってはいるんだけど、6歳の俺がそれを言うのは駄目だったかな)
「だから言ったろ!?天才なんだ!まだたったの6歳なのにコスト10の中級魔法まで使ったんだぞ!?」
興奮しながら言う父さん。
「コスト10の中級魔法まで!?それって大人より凄いじゃない!」
二人でキャッキャッしながら言うてる。
(・・・あ、思ったよりTUEEEしてた)
「・・・そんなにコスト10の中級魔法使えるのは凄いの?」
どのくらい凄いのか聞いてみた。
魔法を使えるようになる修行ばかりでその辺りの常識は全然仕入れてなかったのだ。
「ええ、低級魔法までなら村でも私が教えている様に皆が使える様になるわ。中級魔法もずっと修行を続けていればコスト6の魔法なら使う事が出来るのは普通なの。コスト8が少し強い人。コスト10となれば達人と言ってもいいわね。上級魔法なんて使える人は少なくはないけれど、簡単に見つけられるほど使える人は多くはないわね。中級魔法を扱える人なんて本当に一握りの人しかいないはずよ」
「そ、そうなんだ・・・ははは」
6歳で達人クラスの魔法を使えるのだ苦笑いするしかない。
「その内、上級魔法の使えそうね」
(・・・ごめんなさい。コスト11の『短距離転移』なら使えます)
『短距離転移』
コスト:11 素早さ:7
対象が素早さ7以下なら素早さ7として、7以上ならその対象のユニットの素早さの数値となり、攻撃行動を行う事が出来る。次の相手の行動権の時、素早さ7以上の行動しか取れず、素早さ7以上のユニットでしか【庇う】行動も取れない。取れなかった場合、続けて行動権を得る。
TCG化の効果なら詰めカードと言った所だろうか。
(だって、移動系は日常でも色々と便利だから優先的に頑張って覚えたらいつの間にか上級魔法迄覚えちゃってたんだもん)
内心でテヘとする。『フライ』などもその一環として覚えたのだ。
「あの・・・父さん、母さん。お願いがあるんだけど・・・」
「何かしら?」
「ああ、何だ?言ってみろ」
急なお願いの言葉に機嫌よく返事をしてくれた。
「・・・1人で狩りに行かせて欲しい」
「な!?」
「え!?」
俺の言葉に二人とも驚愕する。
「ま、待って!流石にそれは駄目よ!貴方は、まだ6歳よ!?それに狩りにはまだ1回しか行った事がないのに許可できるはずがないじゃない!」
「そ、そうだ!いくら神戦が強くても実戦はまた違う!命の保証もされていないんだぞ!?」
二人が慌てふためく。
何故、俺が狩りを1人でさせて貰うように頼んだのか。もっと強い魔物を倒して俺TUEEEをしたかったからに他ならない。この世界でもカードの入手方法は魔物を倒す事、何かしらの事象を起こす事だ。【逆転】なんかはまさにそうだ。何かしらの危険が発生しない限り【逆転】持ちのカードは手に入ることが出来ない。それにスキルカードを使わないと恐らく高レベルの魔物を倒す事は出来ない。出来たとしてもかなりの苦労が発生する。なのに、スキルカードを使うのを禁止されるなんてありえない。
だから、スキルカードを使う狩りをする為には、1人でやるしかないのだ。幸い、俺にはエイフィというパートナーがいてくれるし、ユニット召喚でパーティというものを気にしなくても良い。
この世界にはもう6年居るし大体は慣れた。実戦も昨日経験した。思ったより恐怖が全然なかったし、相手の命を奪うのに大した抵抗がなかったのは正直不思議だったが、それだけこの世界に馴染んだという事だろう。
それは、転生だったからこそだと俺は思う。転移だった場合は、そんな直ぐになれるわけがない。転生して6年という年月を過ごし、動物を捌く姿等、食べる為とはいえ、命の遣り取りを目の当たりにしていたからだと思う。日本にいた頃ではあり得ないスーパーなどで売られている物しか目にしたことがなかったから、最初の頃は目を背けてばかりだったのだ。それらに慣れたからこそだろうと思う。いや、確かにそれもあるのだろうが、一番の理由は、カード集めだと思う。ポ〇モンゲットだぜのノリだった気もしなくはない。
「俺、強くなりたいんだ!」
(そして、ハーレム作りたいんだ!)
力強く拳を作る。取り合えず、良い笑顔で説得を試みる。
「「・・・」」
二人はアマロの真剣な瞳を見て、お互いに頷き合う。
「・・・分かった。だが、1ヵ月。1ヵ月だけ我慢しろ。普通の子供達は最低でも1年は一緒に狩りをして、1人立ちしたとしても、その行動範囲は当分の間はラビットやゴブリンが
いるエリアだけだ。それよりも強い魔物に行く場合は親と一緒に問題なく狩れるようになるまでするのが普通なんだ。それをお前の事だ。1人で強い魔物のいる奥のエリアに行くつもりだろ?」
「・・・それは・・・」
バレてる。・・・つい、目を逸らしてしまった。
「だから、それを1ヵ月だけ俺と一緒に行動するだけで、普通の子供がちゃんと1人立ちをするのは早くても12歳だ。それを認めてやるんだ。これを飲めないと言うのならこの話はなしだ!」
真剣な父さんの瞳に、少し怖気づいてしまうが、それと同時に心配もしてくれているのが分かる。
「分かったよ。それでお願いします!」
ペコリと勢いよく頭を下げる。
「それとな。もう一つ条件がある?」
頭をガシガシとしながら言う。
「え゛っ!?」
「何、父さんともっと神戦をしてくれ。お前の戦術も聞かせて欲しい」
ニカッとヴァーダが笑うと。
「分かった」
と笑い返す。それを母さんがニコニコと笑顔で見ているのだった。
★★★★★★★★★★★★★★
「そんな!?」
翌日、母さんと神戦をして、勝利を収めた。
「な?信じられない程凄いだろ?」
神戦を見ていた父さんが自慢気に言う。
神戦を他の者が見る為にマナフィールドに入るには、戦う二人が手を翳す時に一緒に手を翳し、見学者は「マナデュエル」と言わなければ、謎の観客席で見ることが出来るのだ。
「そうね!」
負けた母さんだが、それを嬉しそうに肯定してくれる。
「やっぱりアマロの並外れた魔法の才能があると思うわ!6歳でこれ程の魔法を使える人がいる何て聞いた事ないもの」
(母さんの戦い方は回復重視の戦い方だった。サポート系の魔法を多く使用していた)
「取り合えず、このマナデュエルで重要になってくる要素は素早さだと思うんだ。二人ともある程度の素早さを持つスキルや魔法は使えるけど、中級魔法以上の早い魔法に対応しきれていないのが痛いと思う」
二人とも素早さが3や4までしかない。それにその行動も当たって当然というような認識だ。コストは大きいが相手のユニットに対する行動を強制終了させ、ユニットを回復させることが出来るからだ。
「しかしだな。普通、素早さ5以上の魔法や行動を取れる者は少ないんだぞ。俺が冒険者していた時だって『シャドーショット』で凄い技だと言われていたんだぞ」
「そうよね。冒険者の人達でも素早さ5以上のの魔法を使える人は滅多にいなかったわ」
お前は特殊何だと言われている様だ。
「・・・まぁ。父さん達がそれで良いなら良いけど、逆に俺みたいな魔法が使える人がいたらずっと勝てないままだよ。それに、素早さ5以上の魔法を使えるようになったのだって身を守る為に覚えたものだし。急に襲われたら直ぐに発動しなきゃいけないでしょ」
「「・・・」」
父さんと母さん二人は目を合わせた。
「アマロ。お前はその年で何と戦うつもりなんだ?」
物凄く心配そうな顔で聞かれた。
「・・・俺は、神戦試合で世界で一番を目指すんだ。その為にはあらゆる魔法が必要になるでしょ?その為にはありとあらゆる魔法も覚えて強くならなくちゃ」
「「・・・」」
再び夫婦で目を合わせ、少しの間を置いて、プッと二人とも噴出す。
「な、何?」
「いや、俺達の息子は凄いなと思ってな」
「ええ、そうね。誇りに思うわ」
何故、笑われているのかよく分からないが、良いようには思われているのだと思う。
「・・・そういえば、エイフィは?」
母さんが目に溜まった涙を指で拭いながら訪ねて来た。
「あ・・・」
カードをアイテムボックスから取り出し。
「『エイフィ』召喚」
パァと淡い光を放ち出現するエイフィはムスっとしていた。
「早く出して欲しかった。・・・狭かった」
「・・・ご、ごめんごめん」
少し膨れながらこっちを見つめて言う仕草に不覚にも一瞬、ドキっとしてしまった。これが、上目遣いなら破壊力は計り知れないだろうと思ってしまう程に。
「・・・ちょっとフェンリさん」
「・・・何かしらヴァーダさん」
コソコソと二人が何やらニヤニヤしながら話しているのには気付かないアマロであった。