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スーパー店員ナツキ 再会そして終章

「よし!これで終わりだよ」


アリスはパンッと手を打つと、ナツキの服から手を離した。

アリスの診察を受けたナツキは、改めてナツキの顔を見た。

茶髪のショート、人懐っこい笑顔を浮かべながら看護師姿のアリスは、この戦いの後の場においてはコスプレのようにしか見えなかった。


「ありがとうございます」


ナツキの礼にアリスは手をヒラヒラと振った。


「いいよいいよ~。敬語なんて堅苦しい。もー、私なんて患者さんや先生にも敬語、敬語、敬語。オフくらい解放させて~」


アリスはバタバタと子供のように手足を振る。


「あはは、看護師さんらしくないですね。⋯⋯あっ、らしくないね。て、そんなこと言ったら失礼だよね」


慌てて敬語を言い直したナツキの様子にアリスはニヤリと笑う。


「ん~、その反応初々しくてボクは好きだよぉ。そんなに可愛いともっとナツキのこと知りたくなっちゃうなぁ。⋯⋯ボクとオ・ト・ナの診察ごっこしちゃう?」


「えっ!?」 


艶かしいアリスの口調に顔が赤くなる。


「にゃはは。冗談だよ~、こう見えて仕事はマジメだからね。あとは不真面目でーす」


ナツキの反応をからかうようにアリスが腹を押さえて笑う。


「おい、こらそこらへんでやめとけ」


ゴンッ


ミクニの拳がアリスの脳天を直撃する。


「いったぁい。おっさんやめろー!」


ミクニの拳骨を受けてアリスは悶絶するように頭を抱えた。


「あれ、おっちゃんはアリスを知ってるの?」


ナツキの質問にミクニは不本意そうな表情で頷く。


「3回ほど一緒に戦った程度だがな。なんせこのキャラだろ。忘れたいが記憶に残る」


「えへへ~、ボクのことをそんなに心配してくれるなんて嬉しいね」


アリスがミクニに両手を挙げて飛び付こうとするのを、ミクニは長い手でアリスの頭を押さえて遠ざける。 


「このバカナースは置いといて、ナツキは大丈夫か」


ミクニの問いに改めてナツキは全身をを再度見回し、腰を捻ったり屈伸を行い痛みがないか確かめる。


「うん、調子はいいよ。アリスの腕がいいから。」 


太腿に深々と刺さった矢の跡は跡形もなく消え去り、身体に残る毒もない。関節や筋肉の動きに異常がないことを確認するとナツキはアリスに尋ねた。


「あれ、下の二人は誰が来たの?」


「やっちゃんとおたっきーだね」


なるほど今揃ったパーティーはこんなところか。


(こう) 男 21歳 勇者

ムラサメ 女 ???歳 勇者のパートナー兼武器

ナツキ 女 17歳 アタッカー

ミクニ 男 36歳 拳闘士

レオ 男 ?歳 魔法術士

アリス 女 ?歳 回復術士兼アタッカー

ユズル 男 15歳 魔法術士兼サポーター

ヤツハ 女 19歳 アサシン

おたっきー(あだ名) 男 ?歳 サポーター


知っているメンバーが大半だったが、それだけにお互いが戦いかたを知っており、連携の面で安心感を覚えるのは確かだった。


「じゃあ、下に降りるぞ」


「了解」「おっけ~」


ミクニの促しを受けてナツキとアリスも同意する。

3人は屋上の手摺を軽々と超えると、ビルの谷間に向かって跳躍する。

ナツキは一度壁を蹴り、残る二人は何回かに分けてビルの窓や壁を踏みながら降りて行く。

裏道を数本経由し、(こう)達がいる場所へとナツキ達は向かった。

途中何人かの人間に出会うが『縛り解放(ルールリリース)』を受けた3人を認識できる者はいない。

3人は人を避けながら、ダクトから香ばしい香りを漂わせる店舗裏を進む。


「ほんと、いちいち人を避けるのって大変だよねー」


頭の後ろで両手を組みながらアリスがぼやく。


「仕方ないだろ。『因子(ファクター)』のみで構成されているこの状態でぶつかったら、俺たちが吹っ飛ばされるだけだ。というか、普通の時でも人にぶつからないように避けるだろ」


憮然とした口調でミクニは喋りながら、前から歩いてくる浮浪者然の男を避けた。


「初めは戸惑ったけどもう慣れたよね」


ナツキも苦笑しながらヴィルハライトがすれ違う人にぶつからないように用心深く歩く。時に左右に避けるスペースがない時は一般人の頭上を飛び越えることで衝突を回避していた。


「こっちですよ」


先程までいた路地裏が近くなった頃、おたっきーがナツキ達を案内するように立っていた。


「おたっきー久しぶり」


ナツキが声をかける。おたっきーと呼ばれる男はボサボサ髪に丸渕メガネ、ほっそりとした、体躯で猫背気味に3人を呼び寄せた。

青いジーンズに白地のプリントTシャツ、何故かプリントにはでかでかと筆文字で、前面に「幼馴染」背面に「浪漫」と書かれている。


相変わらずよく分からない趣味だなぁ。

そんなことを考えながらナツキはおたっきーに近づく。


「あぁ、ナツキさんとミクニさん。えーっと、それとアリスさんでしたか。みんなご無事でなによりです」


気弱そうにおたっきーは3人に声をかけると頭を垂れた。


「そんなことないよ~、ナツキなんて死にかけてたよ。病院ならコードブルーかけてるとこだよ。ま、私の手厚い看護で今はビンビンだけどね」


そうアリスは意気揚々と告げると、白衣の上からも分かる豊満な胸に手を当てながら胸を張った。


「お前はイチイチ発言が際どいんだよ」


ミクニの手刀を今度は受け止めたアリスがニヤリと笑う。


「えーっと、じゃあ行きますか」


二人のやり取りを横目におたっきーがナツキを導く。

先程の場所へと到着すると、そこには(こう)達と先に降りていたユズルがナツキ達を待っていた。


「ユズルから聞いたよ。ナツキちゃん危なかったんだって、傷は大丈夫かい?」


(こう)が心配顔でナツキに駆け寄る。


「ナツキにしては珍しい。怪我はないかい」


(こう)とレオの問いにナツキは頷く。

周りには周囲を警戒するヤツハ、武器形態を解除したムラサメの姿もある。


「うん、助けてもらったから。回復術士が来なかったら死んでたと思う。ごめんね、皆に心配かけちゃって。アリスも本当にありがとう」


改めてナツキは深々とアリスにお礼を述べた。


「いいよー。生きるか死ぬかだもん。ちなみに、私は例え死んでも10秒以内なら蘇生魔法できるから覚えといて」


片目ウインクにピース、ペロリと下を出しながらアリスは笑った。

「ところで、倒れてた人は⋯⋯」


ナツキが気になっていたことを尋ねる。


「あぁ、彼女もアリスちゃんのお陰で⋯⋯」


レオが言い終える前に、レオの後ろから隠れていた人影がそろりと現れる。


えっ、いやまさかそんな。


その顔を見たナツキは信じられない思いだった。

相手もナツキを見ると、信じられないといった様子で目を丸くする。


「隊長⋯⋯!?」


「ラフィー!?」


見覚えのあるバークライツ共和国、遊撃隊の隊服。

襟元にバークライツ語で7と刺繍されている人物は、間違いなくナツキ率いる第7遊撃隊の隊員、ラフィー=メイその人であった。



「たいちょ~」


「あ~も~分かったからって」


ラフィーに3度目となる抱きつきを受けて、半ば諦めにも似た感覚でナツキはラフィーを身体から引き離した。

時刻は23時にさしかかろうとしていた。

仲間と別れてから、ナツキは部下であり同じ世界出身のラフィーを引き取ったものの、ラフィーはナツキに会えた安心感からか泣きじゃくるばかりで、肝心の何故この世界に来たのかを聞くことができないままでいた。

とりあえず帰宅したナツキはラフィーを浴室に放り込み、シャワーの使い方を教えると、冷蔵庫の中に余っていた食材を使い焼きそばを二人前作り、風呂あがりのラフィーに食べさせた。


「たいちょ~、本当に会えて良かったです。それに、ここに来て初めてご飯食べられて、この麺料理、名前は分からないけど美味しいです」


口の回りに焼きそばのソースをつけながら、フォークで焼きそばを貪るように食べるラフィーの瞳にまた涙が浮かぶ。


「焼きそばっていうんだよ。ほら」


口についたソースを拭くようにナツキはラフィーにティッシュを渡す。

シャワーを出たラフィーは、ナツキの下着や部屋着を借りて、今はTシャツにスポーツブランドのジャージを履いている。

栗色の髪ショートヘアーに深い濃紺の瞳、『縛り(ルール)』を受けたラフィーの姿は、訪日中の外国人と同じように見えた。


「もう、この世界に突然放り込まれたと思って歩き回ってたら、全然分からないし不安になるし、お腹空いて動けなくなりそうな時によく分からない敵に襲われるし散々です。運よくレオさんに助けられたけど、まさかたいちょーがこの世界にいるなんて!!」


「ラフィー分かったから。もう、安心しなさい。そして、何故この世界に来ることになったかを報告して。簡潔によ」


再び抱きついてこようとするラフィーをナツキは制しながら、今度はナツキが質問を始める。

ナツキの質問にラフィーは涙を拭くと、少し考え込む仕草をしたあと、まじまじとナツキの顔を凝視した。


「答える前に質問してもいいですか?たいちょーはこの世界に来てから結構経ちますか?」


「・・・3年だよ。そんなこと、私がいなくなってからの年月を考えたら・・・ってまさか」


ナツキは自分がラフィーに未だに隊長と呼ばれていたことを完全に見落としていた。

そう、3年も不明になっているのにまだ隊長と呼ばれているわけがないじゃない。それに、3年経っているはずなのに、目の前のラフィーの姿は全く3年前と変わっていない。

ナツキは自分の推論を確かめるように、ゆっくりとラフィーに尋ねる。


「ラフィー、私達の世界で私はどれくらいいないことになってるの?」


「3日です。たいちょー」


なるほど、世界も違えば時間の流れも違うのか。

舌足らずなラフィーの隊長と呼ぶ声だけが、やけに懐かしかった。それに反して如何に自分が遠い場所へと来てしまったことか。

ナツキはそのことを実感する。

そして、ラフィーに向かってポツリと呟くのだった。


「焼きそば一口もらってもいい?」



静かに寝息を立てるラフィーを見守りながら、ナツキはコップのサイダーを流し込んだ。

時刻は0時を回っており、夜勤シフト明けに深夜まで起きているのはさすがに辛い。

ナツキもシャワーを浴びると部屋着に着替え、ようやく一息ついた所であった。


「私だけが歳を取ってるか・・・もし2年後に帰れたとしたら皆より5歳歳を取ってることにのるのかな?」


安心しきってナツキのベッドで枕にしがみつくように眠りに落ちるラフィーを見ながらナツキはぼやいた。

部屋の電気は暗くしており、少し離れたデスクに置いてある卓上ライトだけが明るく白い光を投げかけている。


「ま、いっか。14歳の隊長より19歳の隊長の方がしっくりくるよね」


実力はあっても隊長就任時の年齢は14歳、経験値は圧倒的に足りないのに隊長になったのは、ナツキ本人とは関係のない場所で根回しがあったからだ。

部下は優しいし、気を使ってはくれるけど、やっぱり自分の命が預かられるとなると心配はあるよね。


他の隊や宮廷からの声も耳には入ってきていた。


「できれば、このまま3年経ってて隊長を罷免されてた方が気が楽だったのにな」


苦笑しながら、コップに口をつけ最後に残っていたサイダーの水滴を飲み込む。

ラフィーがこの世界に来た理由は、ラフィー自身確証は持てていなかったが、どうやら自分が姿を消した『雷の回廊』と呼ばれる荒野を再調査をしていた時に光に包まれたらしい。 


「私の時は、強いモンスターとの戦闘中に大怪我を負って、気づいたらこの世界だったけど⋯⋯」


しかしながら、無限にあると言われる平行世界でラフィーもこの世界に来たのは何故なのか。

基本的に、近くに存在する平行世界同士で人の行き来は起こりやすいと聞いたことがあった、しかしどうやらナツキの世界とこの世界はかなり遠いらしい。

ナツキの『因子(ファクター)』の波長が、この世界の固有の波長とはかなり異なっていることからそれが伺えると、ナツキはミクニから教えられていた。

そんな天文学的な確率がこの短期間に続くだろうか。しかも、ナツキにとっては3年であるが、ラフィーにとっては3日である。

何らかの力が働いて、ナツキの通った軌跡がラフィーを導いたのだろうか。


いや、もしかしたらもっと別の理由が⋯⋯


これ以上考えようと思ったが、ナツキはついに限界に達した眠気に横になることを決めた。

無用心とは思いながらも余りの暑さに窓は開け放し、カーテンと扇風機で夜を乗り切ることに決めていた。

ライトを消すことも億劫だった。

気力で起き上がりライトを消す。疲れが溜まった身体は鉛のように重い。


ただ、最後に言っておかねばならない。


「ラフィー、この世界に来たのだから私を殺そうとするのはやめなさい。⋯⋯ここで貴女に命令する人はいないわ。私は貴女の味方よ」


ビクッと寝ていたはずのラフィーの身体が震えるのをナツキは見た。

彼女が自分をよく思っていない派閥から命令を受けていたことは知っていた。

きっと再調査は、自分の生死確認のために出されたものだろう。

しかし、その命令はこの世界にまで来ても従う理由は最早ないのだ。

ラフィーの心根をナツキは知っていた。


「わたし⋯⋯は!」

横たわるラフィーの背中から嗚咽が漏れる。

「ラフィー、お休み」

安心させるように優しさを込めてナツキは小刻みに震えるラフィーの背中に声をかける。

「⋯⋯はい、隊長⋯⋯」

タオルケットに顔を押しつけ声を殺して泣くラフィーを確認して目を閉じる。

東京の夏は暑い。

故郷とは異質の環境、3年経つと忘れてしまいそうな故郷の夏を今日はとても懐かしく思えた。


今日の仲間も皆寝たのかな?


ぼんやりとそんなことを最後に思いナツキは眠りについた。

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