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就寝

草木も眠る丑三つ時——か、どうかかはわからなかったが、おそらく今は真夜中であろう。

顔を左に転がせば、隣ですやすやと心地よさそうに寝る彩香がいた。

何か幸せな夢を見ているのか知らないが、今のところ起きる気配はない。問題はそちらではないのだ。妹と同じベッドで寝ているという事実はまだわかる。

だが——勉は戸惑う。

なぜこのエルフはこんなにも近いところで寝ているんだ、と。

事実、美人エルフのハノは、密着スレスレのところで静かな寝息を立てていた。


食卓での会話と今後の方針を決めたところまでは良かった。

今後は人間種である俺が王国へと向かい、妹はここに残ってハノの護衛をすること。そして王国までの道のりでモンスターに出くわさないとも限らないので、城下町までは人間種であるアサシン男とローブ女が護衛について行動するということだ。城下町に入るための通行許可証はアサシン男のものと、予備としてローブの女のものも借りる。

現在アサシン男とローブの女の『最高位魅了グレートチャーム』は、時間切れによって解けている。それでもなお、その二人の忠誠は彩香に絶対のものとなっていた。彩香の絶対的な力の前に屈服したのだろう。その行動は理解できないわけではなかった。

ただ念のため勉の護衛の最中は再び『最高位魅了グレートチャーム』によって勉に危害が加わることのないよう命令され、その効果時間を考慮して城下町の手前で勉を送り届け引き返す手筈である。


王国での課題は二つある。

まずはアサシン男の意見を採用して、冒険者ギルドに会員登録することに決めた。冒険者という肩書きは王国において大きく、そもそも冒険者になれる、ということそれ自体が才能であったため周囲から一目置かれるようになるという。冒険者になるためには才能が必要だが、これほどまでに強い御方の仲間ということであれば簡単だろう、という不穏なことを言っていたのであったが。

次の課題は『エルフの娼館』の発見。そしてその場所に囚われているエルフの解放である。これは難易度が高く、正直な話どうすればいいかわからなかったが、妹に殺しはさせない、危険にも晒さない、そう言ってしまった手前である。勉は「実は秘策が浮かんだが、これは言ってしまうと少々まずいので俺にやらせてくれ」という嘘八百で乗り切ったが、一切何も思いついていなかった。言ってその場で考えよう。きっとなんとかなるはずだ。そんな甘い考えを持って切り抜けようとしていた。


思い返せば全然と言っていいほど何も計画されていない。


(流石にまずいな……。どうしたものか……。)


考えを巡らせていると、ふと、隣にいるエルフが「んっ」、という妙に艶かしい声をあげたために一気に思考がバラバラになる。


ハノの寝室は一つしかない。

そもそもこの家はハノのものではなく、エルフ一族の長のものだからである。長は夫婦二人で暮らしていたため、寝室は一つ。だが、その部屋の主ももうこの場所にはいないため、借りさせてもらっているのだ、ということだった。

だから、寝る場所がないなら仕方がない、と言って勉は部屋の外の床か何かで寝ようと思ったのだが、エルフがそれを許してはくれなかった。

結局、間隔をあけて寝る、ということで決定した就寝計画だったが、ハノと妹の寝相が異様に悪く、中心にいる勉の方向へどんどんと転がってきていたのであった。


両脇から二人の美女の吐息を感じる。


思わず下腹部が熱くなりそうなのをぐっとこらえて、勉は必死に目をつぶっていた。

(こんなの生殺しだ……)

男子高校生である勉にとってこれは非常に辛いものだ。性欲は普通にあるのである。何も感じないという障害は今の所抱えていなかった。

一生懸命に目をつぶっている勉をあざ笑うかのように、ハノの手が勉の頭を抱き寄せる。

(え、いやちょっと、なんで!?)

驚き。そしてエルフのなかなか強い力で抱き寄せられた勉は、その後頭部全体で柔らかい何かを感じた。

それが何を意味するかを即座に理解した瞬間、勉を羞恥と興奮が襲う。

(死んでしまう……。色々な意味でアウトだ……。)

エルフは幸せそうにむにゃむにゃと言っているが、その内容まではよく分からない。とくん、とくん、という規則正しい感触が頭越しに伝わってきた。

ふと正面にいる妹の手が何かを探るように動いている。月明かりの頼りない光であったが、その手が向かう先が非常にまずい方向へと向かっていることは直感できた。

(まずいまずいまずいまずい!それはまずいぞ彩香!今俺のそこを触られたら抑えきれない!!)

そんな勉をまたもやあざ笑うかのように妹の手が勉の股間に伸びてきて——すんでのところでその腕をガシッと掴んだ。

(これ以上は色々な意味で、というか真の意味でアウトだ……)

レベル250の腕力を必死に抑え込んでいると、やがて妹が手をぎゅっと握ってくる。

こんな風に妹と寝たのは初めてだ、と、後頭部に双丘を抱えながら勉は思う。

確かにエルフの胸を感じながら妹と手を繋ぐのは初めてだったが、そういう表面的で些細な問題ではない。妹とこうしてゆったりとした時間を過ごすのが何よりも感動的だったのだ。

この世界に来てよかったことをまた一つ増やす。

そうして、乳の感覚にもそろそろ慣れ始めつつあった勉は思いを馳せる。


これから、どうしていったらいいのだろうか。


何をするべきなのだろうか。


そもそも元の世界には戻れないのだろうか。


様々な思いが頭を巡った。


ただ、それは、だんだんと微睡みの中に埋もれていって。


勉は静かに目を閉じるのだった。





翌朝。


妹から鉄拳制裁を。

エルフからは羞恥と嫌悪に満ちた表情を餞別として受け取り。


勉は王国へと出発した。

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