001 無意味な人生の終末
今作は結構続きそうなのでよければご覧下さると有難いです。
001 無意味な人生の終末
「ああ、本当に無意味で無駄な人生だった」
そう言って彼『零織 夜卜』は高層ビルの屋上から飛び降りた。
夜トはごく普通の家庭に生まれ、父は実業家で母は専業主婦、住んでいると所は畑に囲まれた田舎でそれなりに裕福な家庭環境で育った。
小学校低学年は目立ちもせず周囲と良好な関係を保っていたが、小学校四年生に成ると集団で仲間外れにされたり物を壊されるなどのいじめにあった。
小学校はそんないじめが続き、先生にも家族にも告げることができずそのまま地元の中学校に進学した。
中学校に入ってもいじめは続き、中学一年二学期には不登校になる。
自宅で学習をするわけでもなく一日中ボーとする日々が続く。
そのせいで家族関係にも亀裂が入り、父とは一切の会話をせず母と妹のみとわずかな会話をする程度の状態に悪化する。
そんな時、あの事件は起きた。
その日の夜父は不在で、家には夜トと母、妹の三人だけの状態だった。
最初は些細な言い争いだったが徐々にヒートアップし、母が言った「この家から出て行け」と、その言葉を受けた夜トは言葉通り家を出た。
大雨の中靴も履かず服も軽装の中何時間と歩き、最後は10キロ先の祖母の家に行き着いた。
夜トの姿を見た祖母は驚愕し、事象を話すと泣きながら家に入れてくれた。
そのまま祖母と祖父と話し合い、実家には連絡せず祖母の家に住むこととなった。
祖母の家に住み着き一年が経った頃、母が夜トに会いに来た。
最初は拒んだがどうしてもというので、しょうがなく話し合った。
最初は家に帰って来いと言ってきたが拒否し、結果夜トがアパートで一人暮らしをする事が妥協案となった。
アパートで暮らし始めて半年、母とは連絡を頻繁にしながら生活していた。
すると突然母が父と離婚をすると言った、夜トは父が心底嫌いで憎かったのであまり気にはしなかったが今後の生活をどうするか聞いたら、母方の実家の近くに安く貸してくれる一軒家があるからそこに引っ越して生活をする事にするという話になった。
夜トとしてはどこにいてもあまり変わらないので、そんなに気にはしていなかったが、引越先が都会だったので結構楽しみであったりした。
家族三人で暮らすようになって一年、喧嘩もあまりなく健やかで快適な生活が続いたが夜トは人生に退屈していた。
学校には通信校に席を置くも勉強もせず、週一の登校にも出席せずただただ自堕落な生活を送り続けていた。
趣味といえばライトノベルを読む事や、Web小説を読む事ぐらいで完全なるインドアの引きこもりであった。
若干のアニメオタク感もあって、ライトノベルを読みながらアニメ鑑賞が彼の1日に行う事の全てであった。
そんな生活にももちろん限度はあり、本を買おうにも貯金は底を尽きネットにも接続ができなくなったため本当にやる事のなくなった夜トは、昼間は自宅で睡眠し夜は街に出て散歩をするようになった。
そんな生活が二ヶ月ほど経った時、夜トはベットの上である事を考え始めた。
時計って如何動いているんだろう、扇風機って中は如何なっているんだろうと、そんな事を考え始めついには分解するようになった。
部屋にある機械という機械を分解し、終いには人間の体の構造に興味を持った。
肉を切る感覚や、血の感触、骨の硬さや筋肉の在り方、眼球の手触りに脳の見た目、皮の厚さや内臓の大きさや硬さ。
挙げればきりが無く、しかし実行に至る覚悟がなかった。
人を殺せば捕まり、未成年とはいえ何人か殺せば死刑は確定だろう。
精神異常者であるという自覚が無い訳では無いが、しかし減刑されはし無いだろう。そうなれば待っているのは刑務所の刑務者暮らし。
なればいっそ計画に計画を重ね、緻密に細かく考えた夜ト自身に想像しうるトラブルとその対処方を考え、その上で犯行を行えば何十人かは殺せるのでは無いかと。
そんな考えの元、夜トはノート5冊分の緊急自体に対する対処法や、殺人の方法から場所、逃走方法から道順まで事細かに書き記しそれを頭に完全記憶した。
それからの彼の行動はいたって単純、郊外まで刃渡の厚いナイフを買いに行ったり、ナイフの研ぎ方を覚え、毎日10キロのランニングによって体力をつけ、独学で近接格闘術や体術・武術・歩行術・特殊な息使いを覚えたりした。
そして殺した。
初めの一人目は通り魔に見せかける為に裏路地に入ってきたサラリーマンをすれ違いざまに殺し。
二人目は我慢できずに猟奇的に獅子をバラバラにして、内臓を出し頭蓋骨を割り肉を先骨を露出させ殺した。
三人目以降は連続殺人犯だと断定されると予測し、時間帯を変えたり場所を遥か遠くの地にしたりした。
そんな生活を三ヶ月ほど続けると、家に警察がきた。
さすがに任意の職質だったので強引に帰ってもらったが、もう捕まると思い最終準備に取り掛かった。
あらゆる証拠をあらかじめ用意しておいたアタッシュケースに入れ、丸半年をかけて作った抜け道を使い近くの山に行きそれを埋め夜ト自身は高層ビルに向かった。
それが現在であり冒頭になる。
「ああ、ああ本当になんてバカバカしくて意味の無い人生だっただろう」
彼は何の感情も見せずに、ただただ無情にこぼれ落ちる様に吐く。
「無駄で無意味で無価値で無感動な人生にそしてその終末。何の意味は無く何の価値は無い、そんな俺の人生はやはり意味はなかったのだろう」
夜トはやや少し悲しみの表情を表しながら言う。
「もしも地獄があるならば俺はそこでもっと自由に生きよう。
もしも来世があるならば俺はそこでもっと狂気に生きよう。
さらば人生、そしてありがとう」
最後にそう呟き彼は死んだ。
頭から地面に落ち、脳が粉々になりながら体がボロボロになりながら死んだ。
彼の人生はここで終わった、今ここで。
しかし彼の物語が終わった訳では無い、彼の人生が物語の一つだとすれば、この世界での彼の人生はさしずめ序章でありプロローグぐらいだろう。
彼の物語はこれからが本番でそして本編だ。
それじゃあ、いつもの夜トの口癖を真似てこう言おう。
さあ、始めよう 彼の壮大で濃密な物語の始まりを。