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◆◇◆
――その人は、家族の太陽で、女王様だった。
ある時は、幼い頃に亡くなった母の代わりとして、ある時は仲の良い親友で、ある時は甘え上手な妹で……。
たった一人の私の姉だった。
――だからだろう。
誰よりも近くて、親しい関係だったからこそ、他人という境界が希薄になり、禍根に残るようなことが起こったりする。
子供の頃の親愛の情は消え去り、思春期を迎えてからは、憎しみだけが心に宿った。
専門学校を卒業して、とんとん拍子に結婚が決まり、嫁いで行く姉が私に告げた言葉を、私は忘れられなかった。
「みっちゃんは、根暗ねえ……」
あの人は、私のことを「みっちゃん」と呼ぶ。
美聖の「み」から、小さい頃から「みっちゃん」だった。
「こんなくだらない、占いばかりしてたら、いつまで経っても、彼氏なんてできないわよ」
本棚から取り出したタロットカードを弄びながら、姉は私を嘲笑した。
結婚が決まり、幸せそうにしている姉を祝福したい気持ちは、私の心の中で木端微塵に砕けていた。
(ひどい……。覚えてないなんて)
私がタロット占いを始めたきっかけは、姉だった。
最初、姉が買った漫画雑誌に付録でついてきたトランプで、占いをしていた私に、タロットカードという占い専門のカードがあるのだと教えてくれたのは、姉だったのだ。
――みっちゃんが占ってくれたら、当たりそう!
そんなふうに、笑顔で言われたものだから、私はお年玉をはたいて、二十二枚のタロットカードを買ったのだ。
あれから、何度も姉のことを占った。私がタロットカードを取り出せば、喜んでいた人だったのに……。
こんなにも、変わるのか……。
同じ姉妹で、沢山の時間を共有してきたけれど、妹の大切だったものを、くだらないと一蹴できてしまうほどに……何もかも忘れて去ってしまった。
その時、目の前に座っていた姉のマネキュアの赤さが目に痛かった。
「結婚したら、そんなに実家には戻ってこれないから。お父さんのことは、みっちゃんがどうにかしなきゃいけないのよ。そりゃあ、よほどのことがあったら、駆け付けるけど。貴方も少しは現実を見なさいよね?」
それは、家族としてのお小言のようだったけど、私には、微塵も情が感じられなかった。
以前の姉だったら、軽々しく父を美聖に託したりしなかった。
もっと、責任感を持っていた。まるで、他人事のような、姉の声が遠くに聞こえる。
そして、私は気づいたのだ。
―――ああ、この人は、もう私の家族ではないのだ。
私は子供ながらに、自分の半身がもぎ取られたような、毒々しい痛みを感じたのだった。




