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連日続く催眠じみた取り調べ。
僕の心が折れるか精神が参るまで、つまり僕が犯行を認めるまで開放する気はないのだろう。
だから、この状況を打開するために、今日は僕から語る事にする。
「姉貴の事どこまで知ってる?」
朝食を運んできた女に、そう問い掛けた。
「引き篭もりだったのは当然知ってるよな。じゃあ、引き篭もった原因を知ってるか?」
「・・・・・・・・・」
無言でトレイを机に置く女、聞いてるかどうかわからないが、勝手に喋らせてもらう。
「アイツ高校の時、彼氏が出来たんだよ。最初は幸せそうだったけど、実はその彼氏がヒドイ男でね。輪姦されたらしいんだ、一回一万ってね。それで男性恐怖症になって外に出れず、ずっと家に篭るようになった」
「・・・・・・・・・」
「でも、僕の前では普通に喋れた。男性恐怖症の女が、この世で唯一心を許せる男だ。何が言いたいか、わかる?」
そこで、ようやく僕の言いたい事が伝わったのか、不審が混じった視線を寄越す女。
「アイツは僕のことが大好きだったんだ。姉弟としてじゃない、一人の男として。つまり惚れてた」
「――――・・・・・・」
女の表情は変わらないが、それでもわかる、内心では驚愕している事が。これでも長い付き合いだ。
僕は畳み掛けるように言う。
「当然、近親相姦はいけない事だと知ってたけど、僕も思春期の男だし、後はどうなるかわかるよな? 名誉のために言っとくけど、最初に擦り寄って来たのは姉貴の方だぜ。夜な夜な僕のベッドに忍び込んで、耳元で囁くんだ。"ねぇ、しよう"ってね。ハハッ、笑えるだろ!? 輪姦されて男性恐怖症になった癖に、性欲だけは一人前なんだから!」
無表情だが、どこか蔑むような眼で見据えてくる女。
それに対し、僕は自分の唇が自然と吊り上がっているのを感じた。
姉との近親相姦の体験談を笑顔で話す弟。
精神を壊すというのがこの女の目的ならば、それはとうに達成できているのかもしれない。しかし、これは前置き、本当の言いたい事はこれからだ。
「そんなイカレた姉貴だ。何をしたっておかしくないよな? 例えば、この世で唯一信頼している男から、"いい加減ウザイんだよ"って言われたら、どうすると思う?」
「・・・・・・・・・」
「"自殺"、ぐらいはするよなぁ。どうやったかは知らないけど、バスタブの縁に頭を打ち付けたり、僕のバットで自分の頭をブン殴るぐらいは、やってのけるんじゃないのかなぁ・・・・・・」
「それはないわ」
「――――、え」
唐突に、ここで始めて、女は僕の推理を斬り捨てた。
「状況から見て、あなたのお姉ちゃんは間違いなく他殺だった。そして、お姉ちゃんを殺したのは間違いなくあなた。あなたはお姉ちゃんを殺して、死体を近所の林に埋めたの」
「―――な、なんだよそれっ! 前も言ってたけど、死体を埋めるのは不可能だろッ!? だってアンタ、あの後すぐに僕をここに閉じ込めたじゃないかッ! そんなの閉じ込めた張本人のアンタが一番よく知ってるだろ!? 第一、殺したのだって証拠はあるのかよッ!?」
「・・・・・・・・・」
女は応えず、また明日、と吐き捨てて、去って行った。
ガシャン、と間髪入れずに錠の落ちる残酷な音が響く。
閉ざされた空間、密室、独房。
「〜〜〜〜〜〜くっそッ。ふざけんなよォッ! 出せッ、ここから出せェ!!」
僕は置かれたトレイを引っくり返して、叫ぶが、その声が誰かに届くのかもわからない・・・・・・。