表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

3








 連日続く催眠じみた取り調べ。

 僕の心が折れるか精神が参るまで、つまり僕が犯行を認めるまで開放する気はないのだろう。

 だから、この状況を打開するために、今日は僕から語る事にする。


「姉貴の事どこまで知ってる?」


 朝食を運んできた女に、そう問い掛けた。


「引き篭もりだったのは当然知ってるよな。じゃあ、引き篭もった原因を知ってるか?」


「・・・・・・・・・」


 無言でトレイを机に置く女、聞いてるかどうかわからないが、勝手に喋らせてもらう。


「アイツ高校の時、彼氏が出来たんだよ。最初は幸せそうだったけど、実はその彼氏がヒドイ男でね。輪姦まわされたらしいんだ、一回一万ってね。それで男性恐怖症になって外に出れず、ずっと家に篭るようになった」


「・・・・・・・・・」


「でも、僕の前では普通に喋れた。男性恐怖症の女が、この世で唯一心を許せる男だ。何が言いたいか、わかる?」


 そこで、ようやく僕の言いたい事が伝わったのか、不審が混じった視線を寄越す女。



「アイツは僕のことが大好きだったんだ。姉弟としてじゃない、一人の男として。つまり惚れてた」



「――――・・・・・・」


 女の表情は変わらないが、それでもわかる、内心では驚愕している事が。これでも長い付き合いだ。

 僕は畳み掛けるように言う。


「当然、近親相姦はいけない事だと知ってたけど、僕も思春期の男だし、後はどうなるかわかるよな? 名誉のために言っとくけど、最初に擦り寄って来たのは姉貴の方だぜ。夜な夜な僕のベッドに忍び込んで、耳元で囁くんだ。"ねぇ、しよう"ってね。ハハッ、笑えるだろ!? 輪姦まわされて男性恐怖症になった癖に、性欲だけは一人前なんだから!」


 無表情だが、どこか蔑むような眼で見据えてくる女。

 それに対し、僕は自分の唇が自然と吊り上がっているのを感じた。

 姉との近親相姦の体験談を笑顔で話す弟。

 精神を壊すというのがこの女の目的ならば、それはとうに達成できているのかもしれない。しかし、これは前置き、本当の言いたい事はこれからだ。


「そんなイカレた姉貴だ。何をしたっておかしくないよな? 例えば、この世で唯一信頼している男から、"いい加減ウザイんだよ"って言われたら、どうすると思う?」


「・・・・・・・・・」



「"自殺"、ぐらいはするよなぁ。どうやったかは知らないけど、バスタブの縁に頭を打ち付けたり、僕のバットで自分の頭をブン殴るぐらいは、やってのけるんじゃないのかなぁ・・・・・・」



「それはないわ」



「――――、え」


 唐突に、ここで始めて、女は僕の推理を斬り捨てた。


「状況から見て、あなたのお姉ちゃんは間違いなく他殺だった。そして、お姉ちゃんを殺したのは間違いなくあなた。あなたはお姉ちゃんを殺して、死体を近所の林に埋めたの」


「―――な、なんだよそれっ! 前も言ってたけど、死体を埋めるのは不可能だろッ!? だってアンタ、あの後すぐに僕をここに閉じ込めたじゃないかッ! そんなの閉じ込めた張本人のアンタが一番よく知ってるだろ!? 第一、殺したのだって証拠はあるのかよッ!?」


「・・・・・・・・・」


 女は応えず、また明日、と吐き捨てて、去って行った。

 ガシャン、と間髪入れずに錠の落ちる残酷な音が響く。

 閉ざされた空間、密室、独房。


「〜〜〜〜〜〜くっそッ。ふざけんなよォッ! 出せッ、ここから出せェ!!」


 僕は置かれたトレイを引っくり返して、叫ぶが、その声が誰かに届くのかもわからない・・・・・・。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ