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※警告※
この作品には軽度な性表現と、極度の残虐表現が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
これから語る、僕の家族に起きた惨劇は、まぁ、総じて言えば不運だったとしか言いようがない。
不運以外にも様々な要因があったのかもしれないが、やっぱり原因は運の悪さ、その一言に尽きるだろう。
正直、事件が解決した現在も僕の中ではカタが付いておらず、それを済ませに、これから警察病院へ、犯人に会いに行く次第なんだけれども。
それでも、ただ一つ、最初からはっきりとわかっていた真実がある。
君の家族はどうだった? と問われれば、僕は即答でこう応えるだろう。
『僕の家族は壊れていました』
●―――――
寝付きが悪く、中々眠れない。○
疲れていないのに、なんとなく体がダルい。○
空腹のはずなのに、食欲がわかない。×
どうしようもなく気分が落ち込む事がある。×
出来る限り他の人と話したくない。×
自分が人からどう見られているのか、気になって仕方がない。×
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うんざりする・・・・・・。
目の前に置かれた『心の健康チェックシート』を睨め付けて、僕は大仰に嘆息した。
もう何枚目になるかわからない。
これだけ毎日チェックしてたら、そっちもネタ切れになるだろうと、○×を記す度に期待しているのだが、どこぞの精神科医の引き出しは、僕の想像の遥か上をいっているようだ。
「・・・・・・・・・」
もうめんどくさくなって、質問を読まずに全てに×を付け、ボールペンを放り投げた。
「ちゃんとやって。あなたのためなのよ」
目の前の女はボールペンを拾い上げ、優しく机の上に置いた。
「あなたのためって・・・・・・、いい加減にしろよ。こんなの毎日やってどうなるんだ? 逆に心が不健康になるよ」
女は微かに嘆息して、それもそうね、と続ける。
「じゃあ、今日は単刀直入に訊くわ」
「・・・・・・・・・」
「どうしてお姉ちゃんを殺したの?」
「――――――」
確かに単刀直入だった。それはいつもだったら最後に持ってくるはずの質問、しかし、いつもと同じ質問である事には変わりない。
「だから殺してないって。何度言ったらわかるんだよ」
「・・・・・・・・・」
「僕はその時、家に居なかったんだ。アンタ知ってるだろ?」
「・・・・・・・・・」
「ほんとにもう、いい加減にしれくれよ・・・・・・」
うなだれる僕を見て女は、今日はもういいわ、と残して、部屋から去った。
味も素っ気もない正方形のコンクリート部屋、残されたのは僕と机とペンと紙切れ。
「もう、ほんとに、いい加減にしれくれよ・・・・・・」
僕は再び呟いて、女が出て行ったドアに向けて、力なくペンを投げ付けた。
僕がここにぶち込まれてから、どれぐらい経ったかわからない。故に、僕の姉貴が死んでからも、どれぐらい経ったのかわからない。
ある日、僕はいつものように午後九時頃バイトに出かけ、深夜に帰ってきたら、姉貴が倒れていた。
風呂場だった。シャワーを浴びに風呂場に入ったら、顔面を血で真っ赤に染めた、裸の姉貴が倒れていた。
近くには僕が小学生の頃使っていた金属バットが、見慣れぬ朱に染まって、転がっていた。
その後は、あれよあれよと今に至る。
まるで不健康にするためのように繰り返される心の健康チェック。
こちらの言い分なんか聞きもせず、執拗に僕に犯行を認めたがらせる女。
そして、ゆっくりだが、確実に壊れていく僕の精神。
いい加減にしてくれ、頼むから・・・・・・。