幕外 あおい革命
ジャギー・チャンは小皇帝である。
党の進める人口抑制政策によって一人息子となったジャギーは、両親祖父母の溺愛の中育ち、我侭放題のまま我慢する事を学ばずに成長してしまった。
党の中堅幹部である両親は、愛する息子の要求に難なく応える収入があったので、息子が求める物は何でも買ってあげた。
そしてその結果、ジャギーは気に入らない事があると直ぐにかっとなる衝動を抑える事が出来ない大人になってしまった。
パソコンに夢中になったジャギーは自分の部屋に入り浸る様になり、それが益々の自己抑制を欠く事に繋がり、学校もさぼりがちになった。
神童と呼ばれ、周りがちやほやしてくれたのも小学校までであり、井の中の蛙のまま進学し、大学に入る頃には十分すぎる程落ちぶれていたが、自尊心がそれを許さず、プライドは高いまま卒業し、就職した。
それも両親祖父母の力があっての事なのだが、ジャギーはそれを見ない振りをし、結局続くはずもなく、それからは自分の部屋に篭り、出てこなくなった。
そんなジャギーに似た小皇帝は数限りなく、同じ様に部屋に篭り、ネットで憂さを晴らす毎日であった。
それは2011年3月11日の事である。
ジャギーがいつもの様にネットの掲示板を見ていたら、日本鬼子が変な事を言っているからニュースを見ろと話題となっていた。
何気なく、テレビをつけ、ニュース番組にチャンネルを合わせる。
画面では、日本の総理大臣の宣言を延々繰り返していた。
曰く、日本が憲法を破棄した事。戦力を放棄する事。国際条約を全て破棄する事。外国籍の滞在者に帰国してもらう事、鎖国する事である。
「気でも狂ったか?」
ジャギーの率直な感想である。
日本のエネルギー自給率は限りなく低い。農産物輸入量も巨大な数字だ。
江戸時代の様な自給自足社会ならばいざ知らず、今の世の中で鎖国さど馬鹿げた妄言にしか思えなかった。
『どういう事アル?』
『気でも狂ったアルね』
『何かを隠してるアルよ』
ネット上では日本の狙いをああだこうだと論争していた。
しかし、暫くすると
『それよりも、空老師の新作アルが』
といつもの様に、空老師の話題になっていった。
空老師とは日本のAV女優の事である。性の伝道師として崇められているのだ。
だが、それは突然訪れる。
『待つアルぅぅぅぅ、ワタシの老師フォルダーがぁぁぁぁぁ』
『何アル?一体どうしたアルか?!』
『ワタシの空老師のフォルダーが消えたアル!!』
『HDDがクラッシュでもしたアルか?』
『ちがうアル!突然消えたアルよ!!』
『嘘アル!!!ワタシのも消えてるアル!!!!』
『待つよろし!・・・消えてるアル・・・』
『マジアルか?!どうしてアルか!?』
『ありえないアル!!』
『ワタシいつも言ってたアル。大切なデータはDVDなりに取るよろし。』
『DVDのデータも消えてるアルよ!!』
『嘘アル・・・マジでDVDも消えてるアル?!』
『待つね、ちょっと聞くよろし!!ネット上の動画も軒並み削除されてるアルよ!!』
『本当アル・・・』
『マジアルか?とうとう我が党がエロ対策を始めたアルか?』
『ちがうアル!エロどころか普通のアニメも全部消えてるアルよ!!』
『嘘アル!!信じないアルよ!!』
『信じないなら探すよろし!!見つけてみるアル!!」
『・・・ないアルな・・・』
『ワタシのル○スたんはどこに行ったアル?』
『空老師はどこで喘いでいるアルか?』
『我が党が消したアルか?』
『いや、これはHIDEYOSHIの仕業アル!!』
『HIDEYOSHIって何アルか?』
『日本鬼子が鎖国した元凶らしいアルよ』
『『HIDEYOSHI、許さないアル!!!!』』
そしてこれが後に、あおい兄弟と呼ばれる事になる、あおい革命を主導していく戦士達の覚醒の瞬間であった。