晴れ晴れ愉快だね
作者の知識はこれ以上ありません。
しかし、これは明らかな軍規違反である・・・のか?
敵と遭遇、交戦状態になりながら戦場から逃走した・・・のか?
新兵は突撃した様にも見えるが、銃は発射していない。
仲間も援護射撃一つ行っていない。
上官の制止を振り切って敵兵の眼前に躍り出た後、踊り出した、それはどうなるのだろう?
全くもって意味不明である。
何がしたかったのだ、彼は?
踊りたかったのか?
まさか!
それに、なぜ敵は攻撃しなかった?
銃を捨てて無防備となったのに!
アメリカ兵に情けをかけるタリバンではない。
しかも、タリバン兵まで一緒に踊りだすとは何事だ?
まるで意味不明、全くもって理解できない!
会議参加者の心の声に聞こえない振りをして、報告は続く。
「続いて、拘束されたアダム上等兵以下5名の取調べの結果を報告します。」
「事件のあった8月5日の翌6日、監視カメラの映像から第21小隊の軍令違反容疑が持ち上がり、彼らを逮捕拘束し、取調べが始まります。
取調べはイラク駐留軍の基地内で、ハワード・キンベル大尉が行っております。」
「アダム上等兵ですが、取調べに対し、きっぱりと答えたそうです。ハ○ヒのために、と。」
「意味がわからないのだが、どういう意味だね?ハ○ヒ?ハ○ヒとは一体何だね?」
「ジャパニメーションのキャラクターの名前です、大統領。」
「は?ジャパニメーションのキャラクター?」
「そうです大統領。そのアダム上等兵ですが、過去に同様の問題を起こした事は無く、他の兵士からも信頼篤く、アニメ鑑賞が趣味だという以外はいたって普通の青年です。」
「ちょっと待て。今何が趣味と言った?」
「アニメ、ですが?」
「ディズニーかね?」
「・・・いえ、ジャパニーズ・アニメです・・・」
「AOSか・・・」
AOS、アニメ・オタク・シンドロームは近年、アメリカを始め世界各国の若者の間で広がっている問題行動の総称である。
ジャパニーズ・アニメ、ジャパニメーションをこよなく愛する若者に見られる様になった症状である。
始めのうちは、日本が突然鎖国した事に端を発する経済不況、JLによる心理的なショックの一つとして見られていたが、それだけには留まらない異常行動を見せる様になり、各国がその対処に頭を悩ませるようになる。
特徴だって見られるのは、特定のアニメのキャラクターに対する異常なまでの執着である。
お気に入りの女性キャラクターを俺の嫁と宣言し、そのキャラクターに関する商品を買い漁る様になるのだ。
そのうち、そのキャラクターが実在するかの様に振舞い始める。
そのキャラクターがプリントされた抱き枕などを抱えて役所に婚姻届を提出する、教会に結婚式を挙げにゆく、といった行動が世界規模で見られる様になったのだ。
それだけならば、JL前にも、いわゆる痛いオタクとして認知された行動に過ぎなかった。
しかし、AOSはそれだけに留まらなかったのだ。
JL後は、かの太閤HIDEYOSHIの仕業か無許可でアップされたジャパニメーションがネット上から全て消え失せたため、ジャパニメーションをこよなく愛する若者達が鬱状態となり、大きな社会問題に発展した。
その後、過去に日本から輸入された、そのアニメの正規版を持った人物が開催するアニメの上映会が、彼等アニメオタクの唯一の楽しみ方になった。
その為、目的の作品の上映会があれば学校であれ会社であれ、休むのは当たり前になったのだ。
それが休暇の中で行われれば何も問題にはならなかったのだが、AOSの若者はそうではなかったのだ。
それが外国で、軍事作戦に従事するのが決まっていたとしても、予定された上映会に参加すると言って勤務をボイコットする様になったのだ。
そしてそれは米軍だけに留まらない。
米軍が駐留する紛争地で、米軍に敵対する組織の構成員においてもそうであったのだ。
つまり、敵対組織の構成員の若者が所持する正規版のジャパニメーションの上映会に、その組織の構成員と派遣された米軍の兵士が揃って出席し、仲良く盛大な歓声を上げる事態となっていたのだ。
嫁を侮辱されたと言って流血の事態に発展する事も多かった。
敵対組織と米軍に別れて、ではない。
嫁とそれを認めない者達の間で、である。
同じ嫁を持つ者達は固い友情を育み、敵対組織と米兵が、毎日仲良くネットでその嫁に関して盛り上がっていたのだ。
実態を調査した係官は青ざめたらしい。
それはそうだろう。
お互いがお互いの組織の情報を、気軽にやり取りしているのだから。
慌ててやり取りを禁止しようとした軍の上層部は、アニメ上映会の情報が入らなくなって発狂し、無期限ストに突入した兵士が多数出現するという状況に、已む無くネット上での情報のやり取りを認めざるを得なくなった。
軍に関する情報の秘匿をする、という当たり前の制約をつけて。
そんな状況を憂慮したアメリカ政府は、国内においては各公共施設でのジャパニメーションの放映、国外では基地内での放映を検討したが、それは叶わなかったのである。
正規版を持ち込み、再生しようにも、何故か出来ないのだ。
その正規版を、個人が個人で楽しむのは可能であるのに、である。
多数の観客を集める個人の上映会は可能であるのに、である。
どうやら、政府や自治体が主催するのが問題らしい。
なぜなら、版権を購入していたジャパニメーションの劇場放映は今もって行われていたからである。
その後、各国に駐留する米軍においては、隊員に正規版を配り、それぞれの部屋で楽しむ様配慮したが、現地のアニメ・オタクを基地内に招き入れようとし、基地側と衝突した。
その正規版を見る事ができない現地の仲間に同情し、一緒に見ようと画策したのだ。
米軍はやむなく、基地付近の安全な一画を借り受け、米軍兵士が現地の者とジャパニメーションを一緒に見る事が出来る様にしていく事となる。
個別の放映を世界規模で監視しているらしい太閤HIDEYOSHI。その力恐るべし、と世界は再確認したのだ。