表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

兵士は戦場で踊る

  <アメリカ、ホワイトハウス>


 会議室にはアメリカ大統領であるオハマをはじめ、政府機関中枢の人間が集まっていた。

 イラクで起きた軍規違反事件に関する報告を聞くためである。


 「では、報告官、お願いできるかね?」

 「わかりました、大統領。」


 大統領が報告を求める。


 「では、この度イラクで発生した軍令違反容疑事件に関しての報告を始めたいと思います。

 概要ですが、事件の発生は2015年8月5日、午後3時28分です。

 この日、イラクの首都バグダッドにおいて市街地の治安維持活動にあたっていた第8普通科連隊所属、ロバート・ウィリアム軍曹率いる第21小隊が哨戒任務中、タリバンと思われる敵兵数名と遭遇、小銃による銃撃戦に発展しました。

 交戦開始から数分後、膠着状態に陥った状況の中、ロバート軍曹は聞きなれない音楽が流れてきた事を認識します。

 すると第21小隊所属の新兵アダム・キンダー上等兵が突然奇声を発し、敵兵が潜伏していると思われる建物に向け突撃します。

 ロバート軍曹はこれを遮り、遮蔽物の陰に引き戻そうとしますが敵兵の銃撃により被弾、戦闘不能状態に陥ります。

 アダム上等兵は建物の前で銃を投げ捨て、何事かを叫びながら踊り始めます。」

 「ちょっと、待ちたまえ!今、何と言ったのだね?踊る?」

 「はい、大統領。彼は踊り始めました。」

 「・・・なるほど・・・。いや、遮って悪かったね・・・。続けてくれ給え。」

 「わかりました。

 何かを叫びながら踊り始めたアダム上等兵ですが、敵兵には銃撃されず、数分間踊り続けます。

 その後、第21小隊の他の隊員5名もアダム上等兵に続き、銃を捨て踊り始めます。

 ついには敵兵までもが銃を捨て、その踊りに参加します。

 そのまま時間が経過し、踊り終えた者達は泣きながら互いに抱擁を交わし、捨てた銃を拾い、帰って行きます。

 事件の一部始終を撮影した、市街地に設置された防犯カメラの映像がこちらです。」


 巨大なスクリーン上に、土埃が舞い、荒れた空気の漂うバグダッドの市街地が映し出された。

 建物と建物の間は比較的広く、何かの広場を連想させた。

 するとそこに、銃口から火を噴かせながら前進を続ける米兵の姿が映しだされた。

 交戦しているのはスクリーン奥の建物の中に潜む敵兵らしい。

 銃撃戦は数分続き、止んだ。


 すると、手前の方から一人の米兵がふらふらとした足取りで広場らしき空間に歩いてくる。

 確実に撃たれる距離であるはずが、彼は何事も無く歩いてゆく。

 そして広場の中心で手に持った銃を捨て、踊り始めたのだ。

 音のない監視カメラでは音声まではわからない。

 それでも、彼が何かの音楽に合わせて踊っているらしき事が想像された。

 

 カメラの手前から米兵が更に5名、広場に出てくる。

 そして最初の彼と同様、手に持った銃を地面に投げ捨て、彼と同じ踊りを踊り始めたのだ。

 

 他の5名が加わって直ぐに、奥の建物からも敵兵らしき格好の者らが4名、広場に出てくる。

 米兵6名の死を覚悟するが、敵兵は銃を発射せず、それどころか米兵と同じ様に銃を投げ捨て、これまた同じ踊りを始めた。

 男達の足元には投げ捨てられた銃が転がる。

 その中を、6名の迷彩服に身を包んだ米兵と、タリバンと思わしき服装の男が4名の計10名が、黙々と同じ振り付けで同じ踊りを続けていた。

 まるで事前に練習したかのように息がぴったりと合っている。


 何なんだ、これは?コメディー映画か何かじゃないのか?

 スクリーンを見つめるアメリカ政府当局者の顔には深い困惑の色が浮かんでいた。

 彼らの困惑を他所に、スクリーンの中では状況が変化していた。


 踊りが終わった様で、10名の男達は互いに抱擁し合い、握手を交わし、何やらスマホを取り出し、操作している。

 それが終わると銃を拾い、何事も無かったかの様に二手に別れ、カメラの視界から消えていった。


 「この後、支援ヘリが現場に到着、21小隊の面々は受傷したロバート軍曹をヘリに乗せ、部隊に帰還します。

 その後、軍曹の撮影していた画像と、監視カメラの映像から21小隊隊員の軍令違反容疑が持ち上がり、基地にて拘束され、取調べを受けており、今も拘束されております。」


 「以上が事件の概要です。」

 「・・・わかった。ところでロバート軍曹は無事なのかね?」

 「命に別状は無く、病院にて療養中です。」

 「そうか。」


 意味不明な事件ではあったが、犠牲者が出なかったのは不幸中の幸いであろう。

 オハマ大統領はほっとした。


そして報告官の話が続く。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ