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4章-3

「やられた!」

 たったいま転移したレナードが立っていた場所めがけて、リリルは投影球を投げつけた。

 後一歩だった。レナードを使い魔にし、悪人たちの情報を集め、その中心にいる人物を探る。そうして目星をつけた人物にレナードを送り込み、彼の目を通してアルブ・ストーンの所持不所持を確認する。この様にして望みの物を手に入れるリリルの計画は、あと少しで達成されるはずだった。

 しかし、レナードは直前で裏切り、剣を手にしたまま転移したのだった。

「せっかく今まで面倒を見てきたのに……!」

 震える声が事務所を伝播し、次いで机を殴りつける音がした。

 レナードを拾った七年前のことをリリルは思い出す。

 魂のアルブを乱された人間から間接的にストーンを発見しようとしていたリリルは、悪人たちを追っていた。その内の一人を見張っていると、そいつは押し売りに尋ねた家でその家の家族を殺し、その末魂を崩壊させて爆発してしまった。慌ててリリルが駆けつければ男の子が一人辛うじて生きていた。悪人の爆発で魂を乱され左眼を変容させたレナードをリリルは拾って治療し、仕事をさせながら育ててきたのだった。

 かつての邂逅から七年――レナードは彼女のもとを旅立った。裏切りという形で。

 そもそも、彼女がアルブ・ストーン探しにレナードを使ったのは、彼女の呪いのせいだった。はるか昔、リリルがまだ魔女の里にいた頃、彼女は里の禁忌を犯し危険人物として第七感覚を封印されてしまったのだ。そのせいで彼女はアルブ・ストーンを感知できなくなっていた。

 この呪いのせいで、リリルは一人でアルブ・ストーンを探すことが出来ない。だからレナードを使い魔にして、ストーンを探していたのだが……。

「居所がわかった以上、エマからストーンをいただくくらいなら私一人でもできる。けどそのあとは? あの目の持ち主にまた会えるとは限らないし……」

 エマのアルブ・ストーンは、安定化している上でなお悪人を生み出していることを考えれば、かなりの大物であるに違いない。それを吸収すれば百年は寿命が伸びるだろう。その間に次のアルブ・ストーンを見つけられればいいのだが――

 しかし、それだけではない。呪いを解くためには里の長老を殺さなければならない。そのためには、生きながらえるだけではなく大量の魔力も必要とする。ストーンの入手が百年に一度では、それも到底かなわないだろう。

「…………」

 だが、だからといってなにもしない訳には……。安定化しているとはいえ、エマのストーンがいつ暴走するかもわからないし、レナードの動向も気になるところだ。

 アルブ・ストーンとレナード――宝と地図。

 この両方を失う……それはあってはならないことだ。ならば、少なくとも確実に入手できるものから対処するべきではないか?

「仕方ないわね……」

 先ほど床に投げつけた投影球を拾う。リリルが魔力を通わせると、たちまちそれはレナードの視界を魔法の窓に投影する。

 窓には、リドリー家の屋敷が映る。レナードはエマに事情を話すつもりらしい。直接彼女の部屋転移しないのは信用を得るためだろうか。

 ――やることが決まれば、あとはタイミングだ。

 レナードの視界を観察しながら、リリルは腹を括った。


   ●


「こちらで少々お待ちください」

 使用人が事務的に言い部屋を後にする。通された応接間の椅子に座り、レナードは苛立たしげに貧乏揺すりをしていた。

 ざっと部屋を見渡して、脱出路の確認をする。応接間は四面の壁に囲われていた。扉は二つ、窓は三つ。品のいいカーテンを従えた突き出し窓が、片開きの扉と正反対の壁に取り付けられている。ここは三階、エマを連れて逃げることを考えれば、飛び降りることは出来ない。あと何回転移できるか、レナードはぶつぶつと数える。

「――……!」

 ノックの音がしてレナードは顔をあげた。

 部屋のドアが開き、フレッドを引き連れてエマが入ってきた。彼女の顔は困惑が見え隠れし、レナードの突然の訪問に戸惑っているようだ。一緒に入ってきたフレッドも渋い顔をしている。

 軽く挨拶をすると、エマはレナードの対面に腰掛ける。そのすぐそばでフレッドは控えていた。

「今日は一体……なにかありましたでしょうか?」

 エマが尋ねる。レナードは、

「実は……」

 と切り出して、ちら、とフレッドを盗み見た。

 察したエマが、彼に茶を淹れるように命じる。

 フレッドが部屋を出て行ったのを見計らって、レナードは先程事務所で魔女とした話を彼女に説明した。自分の生い立ちと魔女との出会い。二人のやってきたこと。魂とアルブ、それからアルブ・ストーンについて。レナードの左眼が彼に見せるもの、先ほど屋敷に忍び込んだレナードが見たもの……。

「そんな……まさか。信じられません」

 エマの反応は正直だった。魔法だの、魂だのと言い出したレナードを心配する気持ちすら伺える。魔女を知らない一般人からすれば普通の反応だろう。

「そうだろうと思う。だからこいつを見てくれ」

 彼女を納得させるため、レナードは眼帯を外した。たちまち彼の視界は清廉な白い光にあふれる。世界を覆う光のヴェールの向こう側で、エマが息を呑んだ。

 驚いているであろうエマにレナードは左眼の説明をする。

「これが、いま話した悪人を見る眼だ。いまの話を信頼させる材料はこれくらいしかないが……信じてくれないか?」

「え、ええ……それは、信じることにします。一応……。それで、ああ、だとしたら……」

 エマは言葉を乱し、恐れるように立ち上がった。

「落ち着いてくれ。俺はあんたを殺しに来たんじゃない。逆だ。リリルに殺されるまえに守りに来たんだ」

「だってレナードさん。あなたの話だと私は悪人を生み出すんでしょう? だったら、それに、フレッドだって……」

 震えるように言いながらエマはレナードの持つ長剣に目配せした。自分のせいで迷惑がかかるのなら……、などと思っているのかもしれない。 とりあえず、椅子に座るようエマをうながす。

「落ち着くんだ。まだ打つ手が無いと決まったわけじゃない」

 エマはうなずき腰を下ろした。

 レナードが言う。

「逃げるとしてどうするかだ。フレッドなら、もう乱れているからそばに居ても問題ない。あいつについてきてもらえないか……。リリルの話からすると俺も問題ない。ただ、三人いっぺんだと、指輪が持つかどうか……」

「指輪?」

 エマが首を傾げる。

 レナードは右手をエマに差し出した。左手の人差し指で、右手の指輪を指さして言う。

「これだ。こいつは転移の指輪と言って、空間を渡る能力がある。ついさっき三回使っているから、使えるのは残り一回かそこら……人数によって魔力の消費がどうなるかがわからないから、こいつは最後の手段だな」

「そんなすごいものが……でしたら、こちらの指輪もそういう――」

 エマは、レナードが右手に嵌めているもう一つの指輪を指さした。

「ああ、これは――」レナードはリリルの説明をそのまま言う。「こいつは霧の指輪と言って、装備者の印象を薄くするものだよ。発動させている間は人の記憶に残りにくくなるんだ。自身の周りにアルブの結界を張って、自分の魂が他人の魂に与える影響を極力抑える効果が……」

 青白く光る左眼と、右眼。色違いの双眸を眇めて、レナードは霧の指輪を観察する。今しがたエマにした説明が彼の脳内で反響する。

(アルブの結界によって、魂が魂に与える影響を減らす――)

 刮目してレナードは叫んだ。

「そうか!」

 レナードは急いで霧の指輪を外した。それをエマに差し出し言う。

「すまないが、こいつをちょっとつけてくれないか?」

 エマはフレッドの言うとおりにした。気配で、レナードはそれを確認すると、

「よし。じゃあ次は、指に意識を集中させるんだ。そのうち感覚が鋭敏になって小さく震えだすから、そうしたら……風でも水でもなんでもいい、何かの『流れ』を思い浮かべてくれ。上手く行けば指輪が発動するはず」

 果たして、レナードの視界から光が徐々に薄れていった。彼の眼を焼かんばかりの白光は、今や小さな篝火としてエマの胸元に残っていた。霧の指輪が発動したようだ。

(……いいぞ! やっぱり効果があったみたいだ)

 装備者の魂の周りにアルブの結界を張る霧の指輪は、エマの魂から漏れ出るアルブ・ストーンの影響を抑えることができるようだ。これさえあれば、エマを殺さなくてもいいはずだ。

 レナードは、エマに今あったことの説明をした。

 エマは、

「でしたら、もう逃げなくてもいいんですね?」

「ああ。これさえあれば君は悪人を生み出さないだろう」

「よかった……」

 エマは安堵した表情を見せた。ところが、その顔がだんだん白く薄れていった。見ればエマの胸元の光がかつての輝きを取り戻しつつあった。

「こいつは……指輪を貸してくれ」

 霧の指輪をエマから一旦受け取ると、レナードは眼帯をつけてからそれを観察した。宝石の色がかなり薄くなっている。魔力の消費がずいぶんと早いようだ。

(なぜだ……? ここまで魔力が減るには、ぶっ通しで使っても一日はかかる。アルブ・ストーンが関係しているのか?)

 なんにせよ、霧の指輪でストーンの効果を抑えるにはかなりの魔力が必要なようだ。

「レナードさん。どうかされましたか?」

「あ、ああ。指輪の消耗が早いみたいでな。魔力がもっといるみたいだ」

「そうなんですか……」

 じゃあ……、と言葉を濁しエマがうつむく。レナードは彼女を励ますように、

「大丈夫。ないなら取ってくればいい。俺が行く。君はフレッドとこの屋敷にいてくれ」

「どうなさるおつもりですか?」

 エマが尋ねた。レナードが悪人を殺しに行くのではないかと心配しているのだろう。

 レナードは立ち上がり、剣を小さく掲げて見せた。

「この剣で切ると相手の魔力を吸収することができる。こいつで……あの女を切ってくる。なあに、相手は魔女だ。殺すことはない。ただ魔力をいただくだけさ」

「それは……でも、それなら……」

 エマの表情に希望の色がさす。そして――

「何の計画? 私も混ぜてもらえるかしら」

 彼女の望みを、魔女の声が切り裂いた。

 エマとレナードの間、机上五十センチほどの高さに漆黒の球体が浮かぶ。それは瞬時に膨れ上がり、瞬きする間には黒い影が現れていた。二人の間にリリルが転移してきたのだ。

「!」

 とっさに、レナードは剣を抜こうとする。が、リリルの両手がそれを阻んだ。魔法で力を底上げしているのか、どれだけ力を込めてもびくともしない。

 迂闊だった。リリルはレナードの視界を見ることができる。リリルがこの場に転移してくることを考えておくべきだった。

 あがくレナードを魔女が嘲弄する。

「あっははは! 使い魔のくせに知恵が回るじゃないの。そうね。確かに霧の指輪は有効かもね。でもそれだけの魔力はどうするつもりかしら?」

「いままで散々狩ってきたじゃないか。あんたも溜め込んでいるんだろ?」

「ダメよ。これはうちの長を殺すためのものなんだから」

「魔女の覇権争いになど構っていられるか!」

 視界の端でエマが後退していくのが見えた。二人から、彼女は三メートルほど距離をとると、そのあたりで停止した。

 化け物を恐れるような視線を彼女はリリルに向けていた。先のレナードの話と、今が今目の前に湧きだしたような魔女の登場を結びつけたのだろう。自分を殺そうとしている相手を前にすれば当然の反応と言えた。

 リリルが彼女を一瞥する。

「はあい、エマ。久しぶりね。残念だけどレナードの話は本当よ。正義の騎士様がいてよかったわね」

 びくり、とエマが肩を震わせた。

 睥睨するように、リリルはレナードを見下ろして、

「いいことを教えてあげましょうか。私の――あなたが相手取る者の正体を」

「性悪の魔女の他に言うことがるのか?」

「なんとでも言いなさい。私はね、人類の誕生神話に出てくる天に祈りを捧げた女神その人なのよ。ああ、その『人』というのはおかしかったかしらね」

「妄言を――」

「考えてもみなさい。人類の誕生神話がどうして人間に伝わっているのかしら? 人間以前の世界は人間立ちには知り用がないはずよ。女神が知らせた……にしては、昨今、彼女の声を聞く者がいないのはどうしてでしょうね?」

「昔からある話だ。変わったところはいくらでもあるだろう」

「ええ、そのとおり。変わっているのよ。時は万物を流転させ、物語を編纂する。あの話は、魔女を主人公としたアルブ・ストーン誕生物語よ」

 国教会の司祭が全員失職するようなことをリリルは言った。

「昔から考えていたのよ。空に輝く星々をなんとか利用できないだろうか、って。だからやってみたのよ。そしたら空からたくさん降ってきてね。あの神話はそれを語っているの。つまり私は――私こそが、あなたたち人間の生みの親。女神よ」

「……はっ」

 レナードは鼻で笑った。

「女神? お前がか? 悪魔の間違いだろう」

 魔女は恍惚として、

「ふっふふふ。いいわ、いいわよ。立派になったじゃないのレニー坊や。それでこそ私の下僕! それでこそ私の、アルフレインの使い魔よ! 悪人殺しのオースティン!」

 力を込めて魔女がゆっくりと沈み込んでくる。

 上から押さえつけられ、レナードは椅子に倒れ込みそうになる。膝を折って耐えるが、長くは持ちそうにない。後ろの椅子を足で押し踏ん張るためのスペースを作る。

 気持ちだけでも負けないよう、レナードは魔女を睨みつけた。

「ぐっ……」

「いい目よねぇ……せっかくだから頂いちゃおうかしら」

 感慨もなくリリルが言った。

 その瞬間、衝撃のようにリリルの力が上がり、レナードは椅子に倒れ込んだ。その彼に覆いかぶさるように、リリルはレナードに寄り添った。

 彼女の右手がレナードの眼帯に伸びる。

「アルブ・ストーンを見るこの眼――とったところで、使えるかどうかわからないけど」

 彼女の手が触れる。そのとき――

「フレッド、賊だ!」

 リリルの背後へ向かってレナードは叫んだ。

 ちょうど茶を淹れて戻ってきたところのフレッドは、レナードに従って駆け出した。

 フレッドは、有事にエマを護るためであろう護身用の短刀を取り出し、見知らぬ魔女に襲いかかる。二人に面識がなかったことが幸いした。もし事前に顔を合わせていたら彼は躊躇したかもしれない。

 リリルが逃げようとする。そこで、レナードは魔女の胸元を蹴りあげてやった。

「がっ……!」

 自身で入れた力にレナードの蹴りが加わって、リリルは勢い良くすっ転んだ。そこへ予想を外されたフレッドがもつれ込む。レナードはその隙に、エマめがけてかけ出した。

(今のうちに逃げ出すしかない。魔力が足りないが、二人くらいなら……っ!)

 正直、この指輪で転移するのは駆けだ。魔力が足りるかもわからない。しかし、エマはまだ十歳かそこら。身体も重くない。上手く行けば渡れるはずだ。

「相手をしようとするな! すぐに逃げるんだ!」

 フレッドへそう言いつつ、レナードは勢いそのままエマを掻っ攫うようにした。右手に意識を集中させる。

 目を閉じる。彼の思考へ浮かび上がったのは、くるくると回り出す運命の車輪。

「やめなさい!」

 リリルの声がする。

 レナードは転移の指輪を発動させた。


   ●


 ――ぐらり。

 重力が復活してレナードはたたらを踏んだ。

 目を開く。石畳が飛び込んでくる。肌に触れる大気が外へいるのだと教えてくれた。首を回し、傍にあった建物を見上げる。すぐに、リドリー家の正門前にいると知れた。

「成、功……か」

 未だ転移の影響の冷めやらぬ鈍った頭で、レナードは取りあえずの判断を下した。

 いささか気だるさが残るものの、身体のどこにも欠損はなく、魔剣もしっかりと持っていた。転移の指輪の宝石は完全に色を失い、今や濁った水晶のようだ。魔力を全て使い果たしたのだと分かる。今後は足で逃げるしかないだろう。

 隣を見る。リリルの狙いであるところのエマは、しっかりと彼と一緒に転移していた。

「…………」

 レナードは眼の前のリドリー邸本館を見上げた。夜の帳が落ちてから遅く、邸内は静まり返っている。応接間へリリルは直接転移してきたので、使用人たちは賊の侵入にまだ気づいていないのだろう。

 これからどうするか――エマを連れて逃げるにしても、いずれ追いつかれることは必至だ。リリルから逃げ切ることなど不可能に近い。戦って勝てるかといえばこちらはより暗い未来しか見えない。魔法さえなければ問題ないのだが……。

(あいつの目的はエマのアルブ・ストーンだ。こいつで何か取引をするような……ダメだ。そもそもストーンの入手と彼女の死がセットになっているから――)

「ああ、そうだ。エマは……」

 エマの体調を確認していなかったことに気づいた。ギリギリの魔力での転移であり、しかも彼女にとって初めての魔法だ。慣れているレナードでさえ気だるさを覚えるくらいだ。気分が悪くなってないといいが……。

「エマ、大丈夫か? どこか具合悪いところとか……」

 声をかけ、レナードは異変に気づく。

 エマは下を向き、自分の身体を抱いていた。凍えるような震えは夜気によるものではなさそうだ。耳を澄ませば「あ……あ……」という悶え声がする。

 様子がおかしい。レナードは屈み込み、彼女の顔を覗きこんだ。

「あ……あ……ああ……ああああっ!」

 身体の内から冷気が決壊したように、エマの叫喚が響く。同時、彼女の胸元が白く輝く。眼帯をつけていてなお感じる光に、レナードは言い様のない不安感を抱いた。

 それはかつてレナードが感じたものであった。エマから依頼を受けたあの日、彼女を家へ送る道中で見つけた一抹の不安。あの時わからなかったその正体に、レナードはここに来て漸く回答を得た。あれは――自分がバラバラになる恐れを感じていたのだ。

 レナードの脳裏にリリルの言がよぎる。

『正直言って、いま彼女が安定していることすら奇跡的なのよ。彼女の魂のアルブ・ストーンは何がきっかけで暴走するかわからないわ。もしそうなったら、この街は廃人だらけになってしまう。彼女に魂を吸われてね』

(なんてことだ。転移はちっとも成功してやいない。失敗だ! 足りない魔力で転移したせいで、ストーンが暴走するきっかけを作っちまったんだ!)

 考えもなしに行動した己をレナードは呪った。決意ですらなかった彼の衝動は、エマを救うどころか最悪の結末を引き起こしたのだ。家族も、使用人も、知ってる人も知らない人も、およそこの街にいる人間の魂をを彼女は奪い取る羽目になった。

 ほかならぬレナード・オースティンの思慮の無さのせいで!

「ああああああああっ!」

 夜のしじまを突き破り、エマの悲鳴がこだまする。

 耳をつんざく爆音も、身体を殴る衝撃もなく、ただ溢れる白光が夜に染まったカースの街を灼いた。

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