四話
短編とは殆ど変わりありません。
ちょっとグダりながらも説明回っぽくなってます。
主人公が(前からですが)若干変態っぽくなってますのでスルーしてください(笑)
誤字修正しました。
帰りたい。ひっじょーーーーーに帰りたい。全速力でここから逃げ出したい。いや寧ろここに来たことすら無かったことにしたい。なんでこんな行事があるんだ。無駄に無駄をかけ過ぎて無駄無駄だ。
あれ、何言ってるんだろ。
「美夜子?どうかした?」
「いえ、何でもありませんわ。悠人お兄様」
そんな心情を表に全く出さずに隣にいるお兄様ににっこり微笑みながらこっそり囁く。
只今迎賓館にて歓迎パーティーの真っ最中。先程初等部最高学年の生徒会長が挨拶をして、開始のゴング……いや、銅鑼が鳴ったのは少し前。
何故私が帰りたいと嘆いていたのかって?それは――。
「ごきげんよう、西園寺悠人様。わたくし悠人様にお会いできてうれしいですわ」
「まあ、ずるいですわ○○様。わたくしだって一番に悠人様にお会いしたかったのに。ごきげんよう」
「ごきげんよう悠人様。今日はとてもうるわしゅうございますね。お隣の御令嬢はどなた様ですか?」
「ごきげんよう――」
「ごきげんよう――」
そう、原因はこの甘い物に集ってくる蟻のような――失礼、私より上級生の御令嬢達が入り口付近で遮ってきたからですよ。入った瞬間帰りたくなった。
というか有名ですねお兄様。まあ『西園寺家』というのもあると思うけど、何よりその顔立ち。
物語に出てくるような王子様のような綺麗に整った顔をしてるから周りの御令嬢は放っておけないんでしょう。
しかも今日はいつもの制服とは違ってパリッとした白いスーツを着こなしている。周りの御令嬢皆お兄様にホの字(死語)だな。
だがしかし。
この学園に着いてからは一切笑顔を見せていないのだ、隣のお方は。前回も言った通り、お兄様はある意味人見知りだ。
それは家族や使用人以外では殆ど、というか全く喜怒哀楽を見せないので学園では常に無表情。でも目元が柔らかいから近寄りがたい程ではないので、こういった御令嬢が近付いて来るのだろうな。
というか邪魔だ、君達。こんな入り口付近で集ってこられては他の人に迷惑だと思わないのか。
しかも私達を囲っている御令嬢が様々なところからきつい香水を使っているから、はっきり言って臭い。一応あまり匂いを吸わないように浅い呼吸をしているが、そろそろ限界になってきた。
すると、周りの御令嬢の挨拶が大体終わった途端にお兄様が一歩前に出た。
「こんにちは、皆さん。今日は歓迎パーティーなので新入生を快く迎えなければならないですね。今回僕のパートナーになってくれた、新入生の妹の美夜子です」
ちょっと嫌味も入ってないか?お兄様。そして周りの御令嬢が目を見開いて固まってらっしゃる。まあそれはそうだろう。私は一回しか実家の公式パーティーに出てないし、何より披露も紹介もしてないし。周りの皆が殆ど知ってなくてもおかしくはない。私の存在を蔑ろにしていても気にしませんよ?
私も一歩前に出て、少し声を大きくして語る。
「ご機嫌よう皆様方、そして初めまして。西園寺家長男、悠人の妹、長女の美夜子と申します。どうぞお見知りおきを」
背をくっと伸ばし、腰を折る。この時浅すぎても深すぎてもNG。程良い位置まで頭を下げ、早すぎず、遅すぎない綺麗な動作で元の位置に戻ることが基本だ。
――この時、周りの令嬢は勿論少し遠くにいた上級生にまで、高すぎず低すぎない穏やかで心安らぐような音が言葉となって響き、そしてとても六歳児とは思えないほど完璧な言動に、一同は魅入っていた。
頭を上げた時には周りの音――というか喋り声が聞こえずに皆こっちを見ていて内心動揺した。
え、私何か間違った?ちゃんと出来たよね!?
ちらりと目線をお兄様に向けると、お兄様は大丈夫だよ、と言って微笑んだ。
――学園内では『氷の貴公子』と呼ばれる西園寺悠人が笑ったことに周りは更に驚愕した。
「それでは皆さん、パーティーを楽しみましょう。ではまた」
悠人お兄様はそう言って私を連れて壁際の方へ歩く。周りの皆無言なんだけど大丈夫か?
「お兄様」
「大丈夫だよ美夜子。それより、頑張ったね」
頭を撫でてくれるお兄様に笑顔がこぼれる。お兄様の撫で方が好きだなぁ。
そう思っていると見覚えのある人達がこちらに近付いてきた。あ、あれは…っ!
「美夜子さん、御機嫌よう」
「御機嫌よう」
「椿さん、花梨さん。御機嫌よう」
二人ともパートナーを連れながらだけど、一緒に来てくれたことがとっても嬉しい。抱き着きたいけど抱き着けないのがもどかしい!
椿ちゃんは紺色のすっきりとしたドレスで、サイドの腰に大きなリボンが2つ付いて、頭にもドレスと同じ色の大きなリボンが付いて、靴も長いリボンを足に巻きつけた感じでとっても可愛いです。
花梨ちゃんは薄いピンク色の私と同じふんわりとしたドレスで、裾には細かいレースが使われており、頭にはピンク色基調の花飾り、靴はちょっと底が高いものを履いていて私と同じくらいの高さになっている。こちらもとっても可愛いです。二人揃って癒し。いや寧ろ天使。
「美夜子、紹介して貰えないかい?」
にっこりと微笑みながら私に聞いてくるお兄様。ほんとにその表裏なければ普通に周りから王子様って呼ばれてただろうね。話が逸れた。
「お兄様、こちら左から菊野椿さん、それから玉松花梨さんです。私の席のお隣同士で仲良くなりましたの」
「「御機嫌よう、初めまして」」
私の紹介で二人は揃って腰を折る。
「椿さん、花梨さん。こちらは本日私のパートナーでもある兄の悠人です」
「初めましてお二人とも、美夜子からよく聞いているよ」
「有難うございます」
「まあ、光栄で御座いますわ」
にっこり微笑みながら挨拶を交わす三人。綺麗所が三つ集まったみたいだね。とても麗しいです。
そんなことを思っていると、なんとも優雅な曲が流れてきた。因みに音源は楽器そのものから流れてるよ。多分演奏してるのはプロだな。こんなところまで金掛けるとは流石金持ち学園。
周りの上級生のペアがいくつか、ホールの中央部分に出てきた。美男美女だねえ。あ、さっきの生徒会長。ということは生徒会のメンバーか。
そうだ。最初のダンスが終わるまでここで新しくゲームの詳しい説明しておこうか。
パーティーの最初のダンスでは生徒会のメンバーが出ることが決まっていて、その後で周りのペアが踊ることが出来る。ただ、生徒会のメンバーはペアを組まなければならない、というわけでもない。
これはゲームの知識だが、高等部の歓迎パーティーは確かこの初等部の一週間前にあるはず。そして私と久我と鷺原は高等部三年生の時にヒロインが入学してきた気がする。
その時の久我と鷺原は生徒会に入っていたはずだ。
生徒会長と副会長として。
そして私はゲームでの立ち位置は……生徒会メンバーファン会長だ。
この私が、というかゲームでの西園寺美夜子は、生徒会の大ファンなのだ。
そして、ゲームでの悪役令嬢、ライバルキャラというポジションなのだ。
だがしかし!皆勘違いしないでくれ。悪役令嬢ライバルキャラといっても彼女はただ生徒会のメンバーを守りたかっただけにすぎない。虐めとかそういうものは一切しない。するのはただヒロインの彼女に忠告をするのみ。
嫌味なことは一切言わず、潔癖の彼女は正々堂々とヒロインに立ちはだかるのだ。元友達だしね。
そんな彼女に前世の『桜の花弁~君の手のひらを捕まえて~』、通称『桜君』のファンは「美夜子のこの後の未来や過去が知りたい!寧ろ美夜子を攻略したい!」という百合紛いの言葉を叫んだファンは数知れない。
だがゲームの公式では美夜子の話は殆どない。どんな育ち方をしてどんな生き方だったかも書かれていない。ただライバルキャラという設定だけ。
しかし公式の想像以上に美夜子ファンが多かったのだ、前世では。
そしてその数知れない美夜子ファンの一人。それが私だった。
だが今では『私』が美夜子本人になってしまっている。本当だったら美夜子の友達になりたかったのだが、もう仕方がない。なので前世の経験と知識を生かして『美夜子』として生きていくことを決めたのだ。二ヶ月前に。
……え、何でこの情報を一番最初に話さなかったのかって?――――てへぺろ♪
あ、ごめん怒らないで、離れようとしないで私が悪かったから。ただ単に最初の方は混乱して纏まらなかっただけだから。ジャンピングスライディング土下座するから。心の中で。
……こほん。先程言った生徒会メンバーのファン会長が西園寺美夜子だって言ったかな?それだけで分かるよね、生徒会メンバー全員が攻略キャラだということを。美夜子は生徒会メンバールート全部出てくるんだよ。大忙しだよ。
でも生徒会メンバーだけが攻略キャラではないのだ。その前にゲームでの生徒会メンバーを紹介しよう。これも今更だが。
生徒会長 三年 俺様何様久我様の久我 一輝 狐の妖怪(九尾)
副会長 三年 腹黒笑顔の鷺原 晴兎 鷺の妖怪
書記 二年 寡黙むっつりの九鬼 正臣 鬼の妖怪
会計 二年 チャラモテ闇系の猫波 冬里 猫の妖怪(化け猫)
庶務 一年 天然爽やかの天宮 迅 天狗の妖怪(鴉天狗)
はい、全員妖怪ですよ。しかも何故か皆血を飲みます。主人公の血を。謎。まあそこらへんはまた今度で。
そして生徒会メンバー以外の攻略キャラは風紀委員メンバーともう一人(この説明もまた今度ね)。全部で合計十人だよ。多いよ。それに何度『僕は疲れたよパトラッシュ…』の夢を見たか分からん。
ネタバレだけど、特に一つだけ何度死んだか分からないっていうルートがあったんだよ!言っちゃえば隠しキャラルートは死亡フラグ満載ルートだったんだよ!(ただの愚痴だよ!)
だがしかし!(これ何回目だっけ)
この隠しキャラはオールキャラ攻略してからじゃないと出ないのだ!つまり今世の人生では奴は出ないということ!これだけでも感動の涙が溢れるものだよ!やったね!みやちゃん!
……とか何とか言ってたらフラグになりそうだから、私はヒロインが出てくるまで(なるべく)ひっそり生きるのだ。
そしてライバルキャラとしてじゃなく、お友達になることが目標なのだ!
最初は攻略キャラ達に遭わせないようにしなければって言ってたけど、一年(というか高校生)の内に全く遭わないっていうのも無理な話だよねってことで、なるべく攻略キャラ達に遭わせないようにしてヒロインちゃんとの交流を深めていきたい。主人公至上主義の名の元に!
「美夜子」
「っはい」
おおおおっどろいた!ビクッとして叫びそうになった声を口の中を噛んで押し殺した。吃驚させないでくださいよお兄様!
「そろそろ僕達が行っても良い頃だが、良いかい?」
あれ、もうそんなに時間が経ってましたか。脳内説明が長すぎましたかね。一旦深呼吸。よし、切り替えて行きましょうか。
「はい、行きましょう」
差し出してきたお兄様の腕に私の腕を滑り込ませて中央部分へ歩き出す。周りは上級生ばかりだが、緊張はあまりなかった。持ち前の経験(前世の分)もあるが、何より隣のお兄様のお陰で、私は一曲踊りきることが出来たのだった。
誤字・脱字がありましたら教えてくださると嬉しいです。