三話
短編とは殆ど変わりありません。
こんにちは、西園寺美夜子です。
あれから一週間が過ぎた。あれというのは勿論入学式。私にとって最悪の日になった。
でも良いの。私にとって癒しとも言える人達が出来たのだから。所謂お話し相手=お友達ね。
先ず一人は私の左隣の席に座っている玉松 花梨ちゃん。
明るいふんわりとした茶髪を背中の中ほどまで伸ばしており、目元がちょっとたれ目の全体的にぽややんとしてる可愛い系女の子。性格は外見と違ってしっかりとしており、多分将来は穏やかな頼れるお姉さんになるね。美味しいです。
そしてもう一人は右隣の席に座っている菊野 椿ちゃん。
さらさらとした艶やかな黒髪はショートまでしかなく、花梨ちゃんとは逆に目元が少し吊り上がってて全体的にクールな印象を受けるが、性格はとっても女の子女の子。言ってしまえば女子力高めの女の子。筆箱がフリルたっぷりのピンクだったのだけれど、本人は外見を気にしてしまい、あまりそういう部分は見せたがらない。私は瞬時に見抜いたけどね。可愛いです。
とっても良い子達で、他の女の子みたいに前後の奴らに媚を売ったりしてない。分相応に対応してる。本当に良い子達なんだよ。そしてそんな子達が私に話し掛けてくれるのはとっても嬉しいのだ。
だから……ね?楽しく三人でお喋りしてたのに割り込んで来ないで欲しいんですけど。鷺原様?
「そういえばあと二週間後に歓迎パーティーがあるよね」
「そうですわね、確か迎賓館で行われるとか。鷺原様はペアの相手は決まりましたか?」
花梨ちゃんがそつなく対応。流石生粋のお嬢様。私だったらそうですかで会話終わっちゃうな。それにしても歓迎パーティーとは面倒臭いものだ。
学園の行事で、新入生を歓迎するというそのままの意味のパーティー。だけど、普通の学校である体育館での集団食事会みたいなのじゃなく、とっても金がかかったパーティーなのだ。
パーティーは二週間後の日曜日の午後二時から六時までで、家から直で迎賓館に向かうのだ。
そして最初に初等部最高学年の生徒会長が挨拶をし、それからパーティーの開幕を知らせる大袈裟な銅鑼が鳴り響いての始まり。
低学年の私達も男女のペアは組むけども、ダンスは踊らない。踊るのは四年生になってからだ。
だから今年四年生になった悠人お兄様もダンスに参加することになる。だけど――。
「――西園寺さん」
「えっ?」
「西園寺さんはペアの相手決まった?」
急に鷺原(最早呼び捨て)に話し掛けられて吃驚した。お陰で心臓バックバクだよ。
「え、ええ。もう決まっておりますわ」
「へえ、誰だ?」
何時の間にかこっちに身を翻している久我(こいつも最早以下略)。ちょ、何であんたがそんなこと聞くし。しかも質問が失礼だ!私に相手が居ないと思っているのか!
「悠人お兄様です」
そう、お兄様はもう四年生だけど、一人余ってしまったというのだ。……実際は相手役を志望する子が多すぎて教員が仕方なくお兄様を一人にしたのだろう。推測だけど。お兄様は嬉しそうに「美夜子とペアになれて嬉しいよ」と言っていたけどね。
本当ならすぐ上の学年に相手をして貰うものだが、どちらの学年も男女揃っていて相手を決めることが出来ないということで、三年生以下の学年でお兄様にメロメロにならず、且つしっかりとペアが組めるのは私しか居ないと教員とお兄様から説得されたのは一昨日のことだ。
私は別に相手も決まってなかったし、先ずパーティーのことも忘れていたから二つ返事で了承した。
教員は見るからにほっと安堵し、お兄様は嬉しそうだ。お兄様は人見知りみたいなものだからなあ。仕方ない。
だが、お兄様が相手になったからにはダンスをしなければならないとのこと。実はお兄様がダンスをするかしないかで職員室で大きく議論されたそうだが(これも大袈裟だが事実だ)、お兄様はもう四年生だし初等部にいるのもあと三年なのだし、ということで免除にはならなかったそうだ。そんなわけで私が踊る練習をする羽目になった。チッ。面倒臭い。
だけどいつも家で受けている教養の授業でダンスを教わっていたこともあり、昨日の練習では殆ど間違うことなく踊ることが出来た。良かった憶えてて。
なので相手に不足はない!と自信満々に答えたのだが、久我は面白くない様子。何故だ。
「……ふーん。じゃあこれから三年はお前の相手はそいつなのか」
お兄様をそいつ呼ばわりにイラッとしたが、我慢だ。相手は俺様何様久我様だ。それに(表面上)お嬢様が怒鳴るのは良くないし、何より私の精神年齢はもうアラサーなのだ。子供相手に大人が怒鳴るのはダメ。ゼッタイ。
「そういうことですわね」
というか、何で私のペアの話で拗ねてんの?私が絶対相手見つけられないと思ってからかったわけか?子供か。あ、子供だった。しかも六歳児。
「そっか、西園寺さんはもう相手決まってるのか……それじゃあ僕等はどうしようか、一輝」
「あ?何が」
「何がって、ペアの相手だよ。僕等は四年生になるまではダンスを踊らないけど、相手は決めないといけないんじゃないのかい?」
「そんなもん、参加しなくても良いんじゃねぇの?」
「流石にそれは良くないと思うよ?」
私を挟んで会話しないで欲しいんだが。近くに立って話せよ。隣の花梨ちゃんと椿ちゃんは二人の会話を見守っているようだ。たすけてー。って無理か。
「別に相手決めなくても良いじゃねぇか」
え、良いのか?それ。
「そもそも俺の相手をするからには相手の身分が俺と釣り合うか、最低すぐ下くらいの奴じゃねぇといけねえだろ」
そうなの?知らないんだけど。
「それを言ったら一輝と僕って一人除いたら誰も居ないようなものじゃないか」
「じゃあ教員に確認しに言ってみようぜ。俺等の身分に釣り合う程の女を紹介しろってな」
まるで悪戯っ子のように顔を緩める久我に私達三人以外の女子生徒がぽわーんとしているが、君達、本人に相手にならないって言われてるようなもんだよ?良いの?てか気付こう?
でも教員にしてみたら悪魔の笑顔なんだろうなー。だって久我の身分って結構高いんだよ?(私が言うのもなんだけど)
あ、あと鷺原の身分も中々に高い。
分かりやすくすると、
久我、西園寺>鷺原>>>>この学園にいる大体のお坊ちゃまお嬢様>>ちょっと裕福な人>>一般人
こんな感じかな?
だからこの学園で言ったら殆どこいつ(と私)の上の身分の人が居ない状態。まさに帝君。
だからこいつの一挙手一投足で学園のルールが変わってしまうのだ(私はしないけど)。本人がしなければの話だけど、これはルール変わるんだろうなーと軽く考えていた。
二日後には担任の先生から二週間後の歓迎パーティーの確認と、久我と鷺原は相手が見付からなければ例外とされるとクラス全員に報告された。本当に言ったのかこいつは。
というかこの学年の対比率大丈夫か?女子に偏ったりしないのか?とも思ったがこの学年は女子よりも男子の方が多かったので丁度良いという。周りの女子は不満そうだが。だから気付けと(以下略)
ペアはしなくても良いが参加はすること、ということで午後のHRが終わった。
そしてあっという間に歓迎パーティー当日になった。日が経つのは早いものだ。
けど開始は午後の二時なので私はゆっくりめの起床をした。そして午後になって支度をする。
私専用の侍女の加奈子さんに手伝って貰って、淡い黄色のワンピース型をした、動くとふわふわするドレスを着込み、夜を思わせる藍色の髪の毛を梳いて貰い、誕生日にお兄様から貰った幅の広い上品なカチューシャを付ける。そしてドレスと同じ色のヒールの低いパンプスを履けば完璧。化粧?六歳児のぷるぷるとしたこの白い肌に要るかそんなもの!
丁度支度が終わった時にノックが響く。はい、と返事をして加奈子さんがドアを開けると、悠人お兄様が部屋の前に立っていた。
彼は白のタキシードが襟やポケットなど所々に黒のラインが入ったものを着て、白いネクタイ、黒のベストを着込んでいた。私と同じさらさらとした藍色の髪の毛も相俟ってとても格好良い。しかもイケメン。とても十歳とは思えない。眼福です。
「美夜子、支度終わった?」
時間を確認するともう一時半前だ。私は肯いてみせる。
「それじゃあ行こうか」
そう言って手を差し出される。この一場面に、何故お兄様が攻略対象じゃないのか疑問だ。とても格好良いのに。
そう思うまま手を載せると一緒に歩き出す。けれど、「そうそう」と言って立ち止まったお兄様に何だろうと首を傾げるとこちらを向いて綺麗な笑顔で、
「良く似合ってるよ、僕のお姫様」
と宣ってきやがりました。何この羞恥プレイ。とっても恥ずかしいのですが止めてくださいお兄様。あでもその笑顔は写メりたいです。
そんな恥ずかしい場面を何でもないように素通りするお兄様に、私はこっそりと先程上気した頬の温度を逃すように溜息を吐いた。
誤字・脱字がありましたら教えてくださると嬉しいです。