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常世封じ道術士 風守カオル  作者: 坂崎文明
第一章 柊の木の呪い
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蛇神

「うーむ、八俣(やまた)大蛇(おろち)なら倒したことあるんだが、首が九つある『翼のある蛇』は初めてだな。ちょっと苦手だのう」


 温羅は思案顔でつぶやいた。

 ひとつの首を落とされて、少し興奮気味の八つ頭の『翼のある蛇』がゆっくりとこちらに向けて迫ってきていた。

 とはいえ、一気にくる様子はなくて、半透明でいて、黒い闇色の身体は何とも不気味だった。

 鳥類のようなふたつの翼は、透明で不思議な光を放っていた。


「カオル殿、私もこれははじめてみるわ。中米あたりの外来種かもしれないわね。ククルカン、別名ケツァルコアトル……古代メキシコの神で『翼のある蛇』というのがいたような気がします。何か気持ち悪いわね」


 百襲媛も同じく当惑気味だった。


「いや、今は頭が八つなんだから問題ないでしょ! 温羅! 百襲媛様もやる気出して下さい! 蛇というより龍のような感じがしますけど」


 低調なふたりの態度に、ハッパをかけるカオルだったが、やはり、彼女もいまいち乗り気ではなかった。


「確かに、蛇というより龍ねえ。属性は何かしら? 井戸から出てきたなら水龍かしら? これは火竜でいくしかないわね」


 百襲媛は少しやる気になってきたようだった。


「でも、やっぱり、頭が九つというのは何かひっかるのう」


 温羅は相変わらず、頭の数にこだわっている。


「いや、温羅、あんたね。私の式神なのだから素直に戦ってほしいわ。主人想いの式神じゃなかったの?」


 カオルは温羅の顔を(にら)みつけた。

 角が二つ出た漆黒の鬼の仮面は当然ながら無表情だが、口元は不敵に笑っている。


「承知した。月読(つくよみ)に連絡して、天照(あまてらす)の準備もお願いしてほしいがの」


 この手の蛇神退治では歴戦の温羅は、冷静に今後の戦いの行方を読んでるようだった。

 

「確かに、体長50メートルはありそうだし、これだけ巨大な蛇神だと三人での殲滅は難しいかもしれないわね」


 カオルは黒いジャージの上着のポケットから、スマホタイプの≪モバイルギア≫を取り出した。

 ≪モバイルギア≫はヘッドマウントディスプレイタイプのものから、スマホタイプのものまでいろいろと開発されてるが、カオルが所属する組織<天鴉(アマガラス)>との通信手段であり、亜空間、異次元空間からも地上と通信できるアイテムである。

 むろん、この常世(とこよ)と呼ばれる特殊空間からも通信は可能である。


月読(つくよみ)さん、天照(あまてらす)の準備をお願いしたいのだけど、大丈夫?」


 カオルはスマホで電話をかける要領で話を切り出した。

 

「はーい、オペレーターの月読真奈(つくよみまな)です。了解しました。天照(あまてらす)の準備には五分ほどかかります。A-GPSで亜空間座標を送ってください」


 高くてキャピキャピした声が聞こえてきた。いつもながら緊迫感のない声である。

 カオルは≪モバイルギア≫のA-GPS画面から現在座標を送信した。


「温羅、五分だけ時間稼ぎしてほしいの。百襲媛さまも援護、お願いします」 


 カオルはそういいながら、闇凪(やみなぎ)の剣を構えなおした。


「では、参る!」


 温羅は切り込み隊長よろしく、巨大な蛇神に向かって疾風のように駆け出した。 

 蛇神は八つの首を揺らしながら、温羅の身体を捕獲しようと動き出した。

 その時、蛇神の口がひとつ開いて、水のようなものを温羅に向けて放った。

 温羅は高く飛んでそれを(かわ)した。

 が、ふたつめの鎌首が温羅の着地を狙って水を放っていた。

 百襲媛は祝詞を唱え、印を結んで、土龍を口寄せしその水を防ぐ。

 温羅は土龍の壁に隠れた。

 が、土龍は嫌な匂いをさせて、半ば溶けてしまっていた。

 

「あらら、酸か何かみたいね」


 カオルは少し嫌な感じがしていた。


「アシッド・ドラゴンね。これだから外来種は困るわ」


 百襲媛も嘆いた。


「すまぬ。百襲媛、危なく骨だけになるところだったわ」


 温羅も少し相手を甘く見たことを後悔してるようだった。

 だが、それは一瞬だった。

 更なる疾走で蛇神の右側に回り込んで行った。

 三つ目の鎌首を飛び越えて蛇神に肉薄している。


 カオルは、温羅の陽動のおかげで手薄になった左側に回りこんで、蛇神の本体に迫っていた。

 同時に三つの鎌首がカオルに迫ってきた。

 闇凪(やみなぎ)の剣を一閃して、三つの首を落とした。

 その間隙を()って、蛇神の鎌首のひとつが酸を放ってくる。

 百襲媛の土龍が酸を防ぎ、カオルは土龍を踏み台にして、さらに跳躍した。

 着地と同時に、闇凪(やみなぎ)の剣で蛇神の首をひとつ両断した。


「カオル殿、蛇神の頭が再生しとる。これじゃあ、きりがないのう」


 温羅は蛇神の頭を金棒で砕きながら、少々、弱音を吐いた。


「そろそろ、百襲媛さまの準備が整うわ。もう少し頑張りなさい!」


 カオルは百襲媛の方をちらりと見ながら、温羅を励ました。

 百襲媛は最後の日矛鏡(ひぼこのかがみ)を置きながら、祝詞を唱えはじめた。


「月読さん、準備、出来ました。天照、打って下さい」


 カオルは百襲媛が蛇神を囲むように設置した日像鏡(ひがたのかがみ)を確認しつつ言った。


「はーい、了解です」


 地球の周回軌道に、青い星のようなものが姿を現した。

 かつて、遊星クルドと呼ばれた古代文明の遺産である。

 太陽の光を集めた遊星クルドは、淡い黄金色の光をまとい明減しはじめた。

 黄金の光が地上に向かって放たれた。

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