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常世封じ道術士 風守カオル  作者: 坂崎文明
第一章 柊の木の呪い
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異界

 その日の晩も顔闇が夢に出てきて、イタイ、イタイと泣いていた。


 だけど、お札の効力か、幹の顔は封じられていた。


 台所の方も気になったので行ってみることにした。




 そこにはいつものように母がいて、味噌汁の具材を刻む音がした。


「母さん、おはよう」


「……」


「母さん、どうしたの?」


「なんでもないよ」


「……母さん」


 その時、母が振り返った。


 一瞬、息を飲んだが、母はいつも通りの母だった。


「どうしたの?変な顔して、どうかしたの?」


「いや、なんでもないよ」


 


 どうも気のせいだったらしい。

 

 二階の自室に戻る。


 だが、そこにはもう一人の僕がいた。


 僕とそっくりな人間が布団の中で寝ていた。


 いや、これはもしかして、幽体離脱というやつかもしれない。


 たぶん、そうだ。


 どうも僕は夜な夜な身体から魂が離れてしまっていたらしい。


 ……ちょっと待て、今は夜なのになんで母親は味噌汁など作っている?


 おかしいじゃないか。


 はっと気づいて、あわてて階段を降りて台所に向かった。


 でも、そこには母親の姿はなく、静まり返った台所があるだけだった。


 一体、あれは「ナニ」だったのだろうか?




 

 そこで夢が覚めた。


 いつもの自分の部屋だし、鏡を覗いても、いつもの自分の顔があるだけだった。


 窓を開けて庭を見たが、いつものように柊の木はそこにあった。


 別に顔が浮かんでる訳でもなく、ごく普通に見えた。


 朝日がまぶしい、いつも通りの庭だった。




「なるほど、それは夢の回路を通して、異界の門が開いてるようですね」


 昨夜のことを話し終えたら、立石巌はそんなことを言った。


「異界の門ですか?」


「そうです。顔闇のような怪異はこの世のものではありません。常世(とこよ)、黄泉の国からやってきます。古神道などでは、神籬(ひもろぎ)や、磐座(いわくら)を通して常世への道が開くといいます。どうやら顔闇のいた古い井戸から常世への道が開いてしまったようです」


 立石巌は難しい顔をしていた。あいかわらず、円らな目が愛嬌のある顔なのだが。


「どうすればいいのでしょうか?」


「そうですね。今晩、私があなたの家に行きましょう」


「え! 来て下さるんですか」


「どうもお札だけでは効果は薄いようです。常世への道も封じなければなりません」


 立石巌は最初、厳しい顔つきだったが、にっこりと笑った。


「よろしくお願いします。助かります」


 僕は深々と頭を下げた。




 

 その夜、立石巌は自宅で僕と一緒の部屋で寝た。


 ほどなく、僕の意識は夢の中に落ちていった。


 気がつくと、僕は自分の身体を見下ろしていた。


 幽体離脱したようだ。



「大丈夫ですか?」


 立石巌も僕と同様に幽体離脱して声をかけてきた。


 円らな愛嬌のある目は妙に安心感があった。


 ふたりでするすると階段を降りた。


 まず、庭の柊の木に行ってみる。


 その日は、柊の木に顔は浮かんでいなかった。


「今日はいないですね」


「そのようです」


 立石巌の声は厳しく、眼光が鋭くなった。


「何か異変でも?」


「いや、まだわかりません」


 声が少し震えている。


 立石巌と一緒にそのまま台所に行った。


 でも、そこには何もいないし、静かな台所があるだけだった。


「ちょっと、井戸があったという居間に行ってみましょう」


 立石巌の声がさらに厳しくなった。


 居間の引き戸を開けた。


 そこにはやはり何もなかった。


「大丈夫のようです。今日のところは部屋に戻りましょう」


 立石巌は意外なことを言った。

 

「え! 大丈夫なんですか?」


「正確には大丈夫とはいきませんが、部屋に戻るしかないですね」


 立石巌は階段を上がって部屋の引き戸を開けた。


 その瞬間、彼の身体が何者かに引き込まれた。


 僕はあわてて階段を上がって部屋を見た。


 でも、そこにはやはり、何もいなかった。


 いや、いなければいけないものがなかった。


 僕と立石巌の身体がそこにないといけないはずだ。


 まずい……。


 振り返ったとたん、僕の身体は渦のようなものに巻きこまれた。


 意識が遠のいていった。




  


ホラー映画の「何かありそうで何もない」というのをやってみました。


何もないようでいて、実はそれ自体が異常というのも書いてみました。


このお話、全く構想もなく流れで書いてるだけなのですが、どうなっていくんでしょう?


僕にもわかりません。



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