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常世封じ道術士 風守カオル  作者: 坂崎文明
第三章 安倍清明の遺産
23/26

安倍晴明の墓所

 安部晴明の墓、晴明塚と呼ばれるものは全国に複数ある。

 その中で京都市右京区嵯峨天龍寺角倉町、いわゆる京都の紅葉で有名な観光地の嵐山にある墓が「公式」な墓だと言われている。

 元々、天龍寺の所領内にあった清明塚を清明神社が管理するようになったという。


 京都の嵐山方面は天皇家の御陵も多く、清明塚のすぐ側に長慶天皇嵯峨東陵も存在している。天皇陵を守護する意味もあるのだろう。


 京都にも以前は晴明塚が沢山あったが、下級陰陽師の声聞師が尊師として奉ったもので、全国にある清明塚も同様の経緯で建てられたもののようだ。


「さて、皆の衆、晴明殿の墓所に手を合わせたら、嵯峨野トロッコ列車に乗ろうかのう」


 雛御前がにやりと笑う。


「雛御前さま、まさか、嵐山まで観光に来た訳ではないですよね?」


 風守カオルは疑惑の視線を雛御前に向けた。

 神楽舞、飛騨亜礼、秋月玲奈の三人もきょとんとしている。


「カオル殿、そなたがそう思うのも無理はない。だが、それこそが我が秘術! 晴明様の真の墓所にたどり着く為にはどうしても、トロッコ列車に乗らなければならぬのじゃ!」


 雛御前はあまりない胸を張って高らかに宣言した。

 十二単衣がゆらめき、長い黒髪が揺れる。

 つぶらな黒い双眸、十四歳ぐらいにしか見えない容姿である。


「おいらも、トロッコ乗りたい!」


 悪童丸も同調する。

 背中の鉄棒と雛御前にもらった破邪の直刀≪八重垣の剣≫を鞘に納めている。

 もちろん、普通の人には背中の剣は見えないように呪術をかけている。

 そんな秘術があるとはとてもおもえなかったが、風守カオルは渋々、すぐ近くのトロッコ嵯峨駅まで歩くことにした。

 清明塚から徒歩五分である。一行もそれに従う。



   †



 桜舞い散る春のトロッコ列車の至福の旅を一時間ほど満喫した悪童丸と雛御前は、トロッコ嵯峨駅に戻ると更なる秘術を繰り出した。


「富山産湯豆腐と丹波牛のステーキ御膳! これこそが次なる秘術じゃ!」


 雛御前の言葉にカオルは半信半疑であったが、飛騨君も舞ちゃんも何か楽しんでいるので、まあ、いいかなと思い始めていた。

 玲奈ちゃんだけが何か気がかりなことがあるのか、浮かない顔をしていた。


「玲奈ちゃん、どうしたの? 何か気になることでも?」


 飛騨君が玲奈ちゃんを気遣かって声をかけた。


「大したことではないんだけど、トロッコ列車に乗った辺りから視線、気配のようなものを感じるんです」

 

 玲奈は不快な何かを振り払うかのように言葉を吐き出した。


「それはわらわも感じてるわ。清明殿を死人還りの術で蘇えさせて操る。わらわが畏れてるのもそのことよ。そのために清明様の真の墓所は複雑な術式を経なければ辿り着けない仕掛けになっておる。実はわらわにも全貌は掴めず、複数の式神が別の術式を持たされておる」


 雛御前はそんな打ち明け話をした。


「なんとなく、その気配の主は想像はつくけど、さて、どうしますかね?」


 カオルは東京の新宿で会ったある人物を思い出していた。


「その時はわらわと玲奈殿が残って足止めをするから、カオル殿は晴明神社に参拝してから一条戻り橋に行ってくれ。そこで新たなる式神がそなたを待っておる。玲奈殿、すまぬな」


「私もそう思っていました」


 秋月玲奈はにっこりと笑った。


「ちょっと待って下さい。確かに私の≪ワタリ≫の結界では二人までしか運べないけど、敵の力も分からないのに、ふたりだけで残るのは危険です」


 風守カオルは珍しく声を荒げた。


「カオル殿、わらわは晴明殿の式神じゃ。これがわらわの仕事なのじゃ」


 雛御前の黒い瞳は揺るがず、決意がこもった言葉を放つ。


「―――分かりました。無理はしないでくださいね」


 カオルはそう言うしかなかった。 


「トロッコ列車にも乗れたし、美味しい料理もたらふくご馳走になった。戦の支度は万全じゃ。心配するな、カオル殿」


 雛御前の言葉は力強い。

 風守カオルはその言葉で安心してしまったことを、後に後悔することになる。

 牛頭天王(ごずてんのう)の霊威にも耐えた雛御前の力は、カオルより上なのは確かだし、対物理攻撃なら秋月玲奈の体術しかないのも確かである。

 結局、現状ではこの人選がベストだと思うしかなかった。

 

 

実は安倍晴明の誕生日と自分の誕生日が同じだったする偶然に最近、気づきました。


京都旅行に行った時に晴明神社に真っ先に行ったのも何かの縁だったのかもしれませんね。


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