狸と狐
「白々しい
今までどこに行っておったなどと知っておろうに
まぁ儂も知っておるがな」
ナリカワ ヒデミツは
タニザワ ヤノスケという間者を息子にあてがい
逐一その動向を把握している事をニザエモンは知っている
豪胆を持ち合わせる野望の商人は改めて息子を探らせるなどヒデミツの気の小ささを笑った
「申し訳御座いません父上
しかし、たかが茶会 戦ならまだしも拙者は武人で御座います
これ程叱責される覚えは御座いません」
「同時に二つも父を失望させる言葉を吐き出すかその口は
どこに行っておったと聞いたのだ
どこに行っておったか答えんか!
いつから言葉が通じんようなった!
たかが茶会だぁ?
何が武人だぁ?
銭無し飯無しで戦なんぞできるか!」
「銭、銭、銭と、そういう父上の銭金第一主義が諸大名の反感を買うのです!」
ニザエモンはまた笑う
「儂に言わせりゃどっちも馬鹿だがね」
「ど…に……お…」
「今銭ゲバはなんと言ったか、いかんいかん」
怒鳴りあっていた親子の声が急に小さくなり
耳をそばだてる事をさぼっていたニザエモンは壁に耳を押し付けた
「どこに行っておった」
「……」
「どぉこぉに行っておった!」
「人に会っておりました」
父の迫力は息子の幼い自我を押さえ付けた
「父の茶会に遅れるなという言葉を曲げてまで会っていたのはどこの誰じゃ」
「拙者の軍師にと望む者で御座いますが申し上げられません」
「よほどの賢人聖人なのであろうな」
「ですから申し上げられませんと言っております」
「ヒデカツお前には常々足りぬものがあると思っておった
それは他人に諫言ばかり吐くお前を諫言で諌める人間だ
確かにお前は兄弟の中でも群を抜く知恵者だ
しかしお前は聞く耳を持たん
一人ではいつか必ず判断を誤る
お前の間違いを臆面も無くただせる人間
それさえあれば儂はお前に家督を譲ろうと思う」
「それは誠で御座いますか!」
「ああ本当だ
誰と会っておった?」
「シジマ アキヨリで御座います!
誠の武人賢人で御座います事は父上もご存知で御座いましょう
やつなら拙者をきっと正しい道に導いてくれ申す!」
ニザエモンは呆れていた
「まあ知れた事とはいえ目の前のエサにこうも簡単に飛びつくとは
ガキよのう」
間を置かず低く野太い声がたった一言ヒデミツの下腹から発せられ地を響かせニザエモンの耳に届いた
「殺せ」




