父の願い母の決意
「ふぁぁぁ、いつの間にか眠っちまったねぇ
あれ!リッカどうしたんだい
そんな青白い顔して
どっか具合が悪いのかい?」
目覚める事を押さえ付けられていた何かを外されたかのように
イヨ姉様は目を覚ました
「なんでもないの本当よ
ちょっと怖い夢を見たのそのせいよ」
「そうかい、いろいろ不安な事があるだろうが大丈夫
あたしもいるし皆もいる
何より色男がいるだろ?
今はあんな調子だけど何より頼りになる
あんたが一番分かってるだろう?」
「うん…分かってる
ねえイヨ姉様 今何時?
お腹空いちゃった」
「もうすぐ昼だよ
今色男が何やら料理してるよ
いや、ありゃ料理じゃないね
はたから見てると戦ってるみたいだね」
「うふふ、本当にそう
無駄に豪快なのよ
でも本当に美味しいのよね」
「違い無いね
あきゃきゃきゃきゃきゃ!」
カチィィィン
イヨ姉様の甲高い笑い声に紛れ
襖一枚隔てた隣の部屋で居合の構えを解いたアキヨリは
鯉口を切った太刀を鞘に収め足早に炊事場に向かった
焦げ臭い臭いを嗅いだのだ
彼は彼が最大級に警戒した何者かをリッカが母と呼んだのを耳にしただろうか
得体の知れない何者かが我が子に接近した気配を感じたにも関わらず
なぜアキヨリは強く警戒しただけで確認しなかったのか
それは自分の経験からである
物心ついた頃のアキヨリが床につき天井を見上げると
優しい笑顔が彼の顔を覗き込む事が度々あった
それは鼻が異常に高かったり
幾つもの目や複数の顔があったり
およそ現世の者とは思えぬものであった
しかしなせだか恐怖は無く寧ろ安心して眠りにつく事が出来た
同時に隣の部屋からは武器を携えた者の強い警戒する気配も感じていた
それは父だったろうか叔父のタメトモだったろうか
兎に角アキヨリは様々な者の庇護を受け成長して来た自覚があった
トウカも特別な何かを持ち合わせて生まれて来たのだろう
トウカに接近した何者かが発するトウカを包み込む様な何かをアキヨリは感じたが
同時に平凡なただ平凡な幸福だけを我が子には訪れるよう それだけを願うのであった
「ありゃありゃ何だいこの羽は」
「イヨ姉様これはね
お布団に入れた羽毛がガワが擦り切れて出ちゃったのよ
何か可愛いでしょ?」
「赤ん坊の鼻や口を塞ぐといけないよ
あたしが片付けるから あんたはまだじっとしておいで」
オタマも目を覚ましイヨ姉様と二人で羽を片付けてくれ
二人は部屋を去って行った
リッカの心の中には先程の出来事が繰り返されていた
二人がいなくなった事で不安に取り込まれるのではないか
リッカは案じていたが実際は違っていた
トウカと二人きりになり逆に不安は姿を眩ませ
新たな感情がリッカの体から放射された
「この世の全て敵にまわしたってこの子を守ってみせる」
それは断固たる決意であった




