白い羽
「少し眠ったらどうだいリッカ
昨日の晩から良く頑張ったよ」
もう既に夜は明けていた
リッカは昨晩より産気づいていた
難産と言ってよいだろう
オタマの時もそうだったが
皆異常に張り切ってあれやこれと右往左往したので疲労は隠せないようだ
まるで子供の様である
元々その傾向はあったがアキヨリが来てからは更に強まったのではないだろうか
さらに困った事にオタマの時あれだけ手際良くイヨ姉様を手助けしたアキヨリが一番役に立たなかった
「姉様お言葉に甘えます
その前にこの子の名前なんですが…」
「それなら俺に任せてくれ
リッカは女の子の名前しか考えて無かったではないか
兄上と俺の明という字とリッカが考えていた桃の字を合わせてメイトウマルというのはどうだ?」
「あの…アキヨリ様
わたしのわがままを聞いて欲しいの
桃とわたしの花という字をとってトウカって名付けて欲しいの」
「トウカマルか、うん、音だけ聞けば勇ましい良い名だ」
「まるはいりません!
どうかトウカだけにして欲しいの
元服したら男の子らしい名前に変えればいいでしょ
お願いです一生のお願いです!」
「うーん、そこまで言うならそれでよいか
大体マルというのは厠の事だからな
魔物が嫌うように男子にはマルとつけるのだが
女の子と思わせるのも魔除けになるかもな
そういえばリッカは俺の幼名を知らんだろう
なんとなダイベンマルと名付けられたのだ
ダイとかベンとか呼ばれていたが
大便の意味を知って一時人間不信になった
裏を返せば魔物が嫌いまくりそうな名前だ
それだけ大事にされていたという事なのだろう
あははあははあはは!」
「あきゃきゃきゃきゃ!
色男はうんこだったのかい?
そりゃ傑作だ!
あきゃきゃきゃきゃ!」
「ア、アギ、うんこ」
皆手を叩いて笑った
予想以上に笑われたのでアキヨリは話すのでは無かったと後悔し
恥ずかしさ故に元服前にアキヨリと名のった事を
今更ながら思い出した
「なんだよ!そんなに笑うなよ
あからさまじゃないか!うんこなんて!」
赤ん坊の名はなし崩しにトウカとなった
「よかった本当によかった
アキヨリ様ありがとう…」
何時の間にかリッカは眠りに落ちていた
短い睡眠であったが夢を見た
出会った頃の幼いアキヨリが赤ん坊を抱えてリッカの手を引いている
自分の視線はアキヨリを上から見ている
どうやらリッカは今の姿のようだ
「逃げるんだよ!リッカ!
後は俺がなんとかする!」
「だめよ!それじゃアキヨリちゃんが死んじゃう!」
「うるさい!俺が今まで死んだ事があるか!ないだろ!
俺を信じろ!」
「逃げたってお母様はどこまでも追いかけてくるわ!
お母様は見ただけで人の名前がわかるのよ!」
「トウカと名付けたのね
良い名前ねリッカ
頑張ったわね」
懐かしい声を耳にしてリッカは目を覚ました
「お母様!」
まだ日は落ちておらず
声の主を探して見まわすと
部屋の中にはイヨ姉様とオタマがうたた寝しているのが見える
恐る恐る最後に隣に寝かされているだろう我が子に目をやると
上半身を乗り出すように赤ん坊を覗き込む女の姿があった
「早くこの手に抱いてやりたい
なんて可愛らしいの
あなたの赤ん坊の頃にそっくりだわ
よもや男の子が生まれて来るんじゃないかって心配したのだけど
取り越し苦労だったわね」
「そんなわけないじゃないお母様
アキヨリ様は運命の子なのですから」
「そうだわね そんな事があったらナガヨリ様もわたしも何の為に…
リッカ困った事があったらいつでもわたしを呼ぶのよ
どんな事からもあなた達を守ってあげるから
またねリッカ
わたしの可愛いリッカ…」
女は顔を上げ赤ん坊からリッカに視線を移すと
優しく微笑んだ
似ていた
いや同じだった女の顔はリッカと同じだった
すると女の黒い髪は瞬く間に白くなり宙に溶けるように舞っていった
それは髪だけでなく全身に広がり舞っていたものはやがてトウカを優しく包むように舞い降りた
それは白い鳥の羽だった




