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六角の花   作者: フミ
95/788

役立たず

ぐらぐらぐらぐら


「色男!そろそろだよ!

お湯は湧いたのかい⁈」


ぐらぐらぐらぐら


「聞いてんのかい!

早くタライに産湯だよ!」


ぐらぐらぐらぐら


真顔というのだろう

全く表情は無いのだがわずかに笑っている

かまどの前にしゃがんだアキヨリは微動だにしていないが

落ち着いている訳ではない

鍋の脇から激しく火柱が立ち上っている


ぐらぐらぐらぐら


「なにやってんだい!

煮えたぎってんじゃないかい!

赤ん坊茹で殺す気かい!」


「あっ!いかん!

アクヤ井戸で水を汲んで来てくれ

ああ無理か

リヨウはおるか」


「自分で汲んでおいで!」


「イヨ姉様 俺はほら、記念すべき瞬間に立ち会わねばなりませんから」


「ふざけんじゃないよ!

お前なんかいたら無事に生まれてくるもんも無事にゃ生まれて来ないよ!」


「はっ!はいただいま!」


「全くデレスケが!

ゲン後はあんたに頼んだよ」


「あ!あぁぁ!わっわかった」


「イヨ姉様ぁぁ!」


イヨ姉様はリッカの部屋から自分を呼ぶ妊婦の声に返事も面倒だとばかりに

着物の裾をたくし上げ大股で飛ぶように走りたった五歩で産婆としての所定の位置へと到着そして待機そして身構えた


「リッカどうしたい⁈」


「うううう」


「分かったよ余計な心配するんじゃないよ

どこにも行きゃしないから安心おし」


「ううううううう」



「生まれましたか!」


突然アキヨリが襖を開け入って来た


「まだだよ!ボンクラが入ってくんじゃないよ!」


「だって今 ううううって」


「うううなんて言う赤ん坊がどこにいるんだい!

井戸で頭冷やしておいで!」


「アキヨリ様…手を握っていて下さい…」


「ああ、そうだね このスットコドッコイが一番役に立つのはそれだろうね」


「アキヨリ様…」


アキヨリは黙って頷く


「アキヨリ様…」


また黙って頷く


「アキヨリ様…」


優しい目をして頷く


何度繰り返しただろうか

その瞬間は訪れた


「きゅうあぁぁ!おきゅあぁぁ!」


「リッカよく頑張ったよ色男も褒めてやんなよ」


アキヨリは黙って頷く


「イヨ姉様…女の子よね…」


「あい?女の子が良かったのかい?

男の子だよ

ほらリッカと色男のいいとこ取りの器量よしだよ」


「そっ…そんな…」


リッカの表情それは予想が違ったなどという程度のものでは無かった

絶望と言っても言い過ぎでは無い程顔色は青ざめている


「そんなにがっかりするでないよ

ほら、抱いておやり」


赤ん坊をイヨ姉様から受け取り胸に抱くと

リッカの絶望はつむじ風に巻かれる塵芥の如く宙に舞った

リッカの見開かれた瞼は静かに下りて優しい視線がまつ毛ごしに赤ん坊に注がれた


「そうよ 関係ないわ

わたしにはアキヨリ様がいる

この子がいる

きっと乗り越えられる」


アキヨリは黙って頷く



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