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劣情
馬上のナリカワ ヒデカツは絶え間ない吐き気に襲われていた
もう何度吐いたかわからない
しかし後から来るニザエモンや家臣達に追い付かれ悟られる事を嫌い
馬を走らせながら身を乗り出し草むらに吐いた
もう胃には何も入ってはいなかったが吐いた
「見当がつかん!生水など飲んではおらんし
足が早いものも食った覚えはない
よもや流行り病ではあるまいな
いや熱も無ければ怠さも無い
いつになれば治まるというのだ」
気付いていないのか
気付いていても認められずにいるのか
吐き気の原因は口にしたものなどではない
目にしたもの
耳にしたものであった
今日は長い間待ち焦がれた再会を果たしたはずだった
ヒデカツの孤独を唯一破壊出来る男
歳は下だかどこか兄のように思える
シジマ アキヨリとの再会を果たしたはずだった
記憶を支配するべきは
陶芸家などに身をやつしているにも関わらず
濁りを知らない眼光
腹の底から響いてくる声
のはずだ
だか吐き気と共に絶え間なく押し寄せ来た記憶
目にしたもの
耳にしたものとは
雪のように白い肌
黒くただ黒く艶めく長い髪
そよ風に揺れる鈴の音のような声
気付いていないのか
気付いていても認められ無いでいるのか
ヒデカツの吐き気それは親友の最愛の人への劣情だった




