手のひらの上
「しかし不思議なお方だった
ミクリヤ ニザエモン殿か…
ナリカワ家とは親密な間柄だろうに
商人の意地だろうか武士の意地だろうか
男の意地なのだろうな
そんなものを感じた」
「うふふうふふ
わたし驚いてます
ニザエモン様があんな一面をお持ちだなんて」
リッカは二人のやりとりが余程面白かったのか
先程までの辛辣な表情とは打って変わり
笑い声混じりでアキヨリに寄り添った
ニザエモンの機転の策も手伝って安心もしたのだろう
「なんと、いつもはどんな方なのだ?」
「なんて言ったらよいのでしょうか
そうですねもっと商人らしい方と言ったら分かりますか?
お話し方もあんなサバサバした感じではありませんもの
きっと気に入られたのですよアキヨリ様の事を
あれが本当のニザエモン様なのでしょう」
「あははあはは
やはりこの乱世の当初より台頭して来た方は一味違うな
ご自分の力だけを頼りにのし上がったのだろう」
「はい、わたしも今日は恐いくらいの何かを感じました
あら…このお履き物ニザエモン様のだわ」
「本当だ!そして俺のが無い!
間違って履いて行かれたか?」
「うふふ違うみたいよ」
リッカはニザエモンの草履を手に取り裏側をアキヨリに見せてまた笑った
「なんと!いつの間に!
抜け目の無い方だ!
名のある大名家に生まれていればとっくに天下はニザエモン殿のものとなっていただろう」
草履の底には
「一時後に南の沢の山小屋に来い」
と書いた紙が貼り付けてあった
「ニザエモン殿随分お早いお帰りで
我等の事はお気になさらずもっとゆっくりして下されば良かったのですが」
山小屋でニザエモンを待っていたヒデカツの家臣の一人が
ニザエモンの姿を目にして声をかけてきた
「いやいや 余り待たせてしまったら申し訳無い
ヒデカツ殿はもう行かれましたか?」
「はい、何やら考え込んだお顔でニザエモン殿を頼むと言われ一人で行ってしまわれました
全くいつもこうです
お叱りを受けるのは我等で御座るというのに」
「ははは!
能力のある方というのは我等常人では計り知れんものでございましょう
さあ遅くなるといけない早速立ちましょうか」
家臣達は皆山小屋を出て馬に荷物を載せたり
手際良く旅支度を整えたのだが
馬が一頭余っているようだ
「それがヤノスケのヤツが腹が痛いと出て行ったきり戻らんのですよ
一体どこまで糞をたれに行ったのやら」
「ははは!もうすぐ帰って来られるでしょう
ほらご覧なさい」
「申し訳御座らーん
道に迷うてしまった
あっニザエモン殿お待たせしてしまいましたか」
ヤノスケだろうか
痩せた小男が申し訳なさそうに身を屈めながら走って来た
「ヤノスケこの恥晒しが!
申し訳御座らんニザエモン殿
早速出発いたしましょう」
「そんなに責めるものでは御座いませんよ
では参りましょうか
ああ、いかん山小屋に忘れ物をしてしまった
しばし待たれよ」
ニザエモンは山小屋に戻り間を置かず出て来ると
「勘違いだったようです
元から煙草入れは腰にあり申した
あはは皆様方年寄りの戯言と許されよ」
「それ位の事で詫びられたら私どもの立場が御座らん
さあ参りましょう」
誰も居なくなった山小屋に一時後アキヨリの姿があった
手には薬を包む紙を持っている
それは山小屋の戸を開けた時舞い降りて来たものだ
紙にはこう記してあった
「タニザワ ヤノスケ
身の丈四尺五寸
離れた細い目
四角い顔
痩せた猫背
気を付けられよ」




