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六角の花   作者: フミ
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十字架とべらんめえ

走り去るアキヨリ達をタキは寂しそうに見送った

敵陣に潜入するのに騎馬でなど以ての外

馬十二頭と敵の情報をアキマサに届ける役目は誰かが引き受けなければならない


タキは囲まれても捕まらない

殺しても死なない

そんなしぶとさのある男だった


「タキならば必ず兄上にたどり着く 」


タガ キロウエモン 苗字と通名の頭文字を取ってタキ、アキヨリの竹馬の友に寄せる信頼故の人選だった


足が自慢の彼らだけあってタキの視界から

あっという間に姿は見えなくなった


「南無八幡!アキヨリ様どうか御無事で!」


涙をぬぐいタキは帰路を急いだ


アキヨリ達は間も無く野営地に到着し

それぞれ持ち場につく為散っていった

夜明け前の野営地は見張りも少なく歴戦の彼等には

眠い目をこする見張りの目を盗み

潜り込む事など文字通り朝飯前だった


「まずは燃える水をつかう」


昨夜のアキヨリの言葉を皆思い出していた


アキマサの領地はわずかながら

石油が湧き出る山があり

狼煙や炊事の種火に便利なので皆水筒に入れ持ち歩いていた

蛇足だが間違えて口にする者も少なく無かった


「皆持ち場に着いたようだな」


アキヨリ達の目には各々野営地のあちこちに灯されたかがり火が映っていた


野営地は静まり返っていた

それは誰も発見されなかった事を物語り

一番遠い持ち場にアキヨリが到着した事は皆の準備は整った事を物語った


「頃合いだな」


アキヨリが目の前のかがり火に燃える水の入った竹の水筒を放り込むと間も無く火柱が上がった

それを合図にあちこちのかがり火からも火柱が上がった


その火柱は何故か蛇のようにのたうちまわり それに気付いた見張り達は何事かと右往左往した


「祟りだー!オアイ様の祟りだー!」


アキヨリ達が声の限り叫び走り回ると

眠りについていた兵達が飛び起き

荒れ狂う火柱を目撃すると野営地は大混乱に陥った


「なんの騒ぎだい やかましいねえ」


首から金の十字架をぶら下げた男は辺りを見回すと たいして慌てた様子も見せずに


「祟りじゃねぇよー!

シジマの三男坊だよ!

シジマ アキヨリ!知ってんだろ?

妖術使いだよ

祟りだなんだと騒いでるヤツをヤっちまってかまわねぇ

敵か味方なんて見分けてる暇はねぇ

ぼやぼやしてると手遅れになるぞ!

乱痴気騒ぎを早く沈めろ!」


彼の名はサナガ ジョスイ


ジョスイが珍しく怒気を露わに言い渡すと

周りの将兵達は 泡を食って散っていった


「鷹を取り返しに来やがったんだ

御輿を守れ!

落ち着いた奴に片っ端からやらせろ

必ず来るから必ず仕留めろ!」


ジョスイは慌ててはいなかった

少なくとも自分ではそう思っていた


「しかし早ぇ早過ぎる

どこからバレやがった

おぅおぅおぅ何て顔して走り回ってんだよ

てめぇの手下ながら嫌になるねぇ

まったくこの国の連中は祟りだの呪いだのに弱いねぇ

神や仏だのは元々人が作り出したもんだろうに」


しかしジョスイは十字架を握り締めていた


「あんな火柱どうって事はねぇだろうに

奴は火を ちょっと操れるだけで作り出せやしねぇんだ

けつを火傷するくらいだよ

慌てんじゃねぇってんだよ

まあ大量に燃えるもんでもありゃ別だけどな…

あっ?燃えるもん?

しっ!しまった!」


ジョスイが目の前で事態の沈静化に声を枯らし

指示を出していた家臣を呼び止めようとした瞬間だった


「あーあーあー鷹なんか捕まえるんじゃなかったよ」


兵糧と鉄砲を置いてあるはずの場所から

天まで届く程の火柱が上がったのだった


つづく

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