わがまま
「正気で言っているのかヒデカツ⁉」
「正気だとも!
アキヨリお前も知っているだろう俺の兄達の愚かさ馬鹿さ加減は!
ジョスイ攻めの時もそうだった
あの戦は囚われていたシジマ兵と内通して砲撃と同時に挙兵するよう取りまとめればカタがついた筈だ
それをあの馬鹿どもは功を争いあって無駄に白兵戦を挑んで幾人もの兵を犬死にさせたのだ!」
ヒデカツは苛立ちを露わに足元の枝を踏み折った
「だったらお前が諌め窘め補佐すればよいだろう!
家督争いなど凶事のきっかけ以外の何ものでもない!
再び日の本を大乱戦の只中に引き戻すつもりか!」
「偉大なアキマサ殿
勇敢なイエナガ殿を兄に持ったお前には分からんのだ
あの馬鹿どもはきっとナリカワを破滅に導く
そのくせお父上のご機嫌を四六時中伺いやがって
おべっかの才には長けていやがる
父上も愚かだ!諫言ばかりの俺には見向きもしなくなった」
「いいかヒデカツ
自分の身に置き換えてみろ
いくら正しい事とはいえ己の非を指摘されてばかりいたら嫌になるというものだ
上手くやるのだお前なら出来るだろう⁈
お前の苦労すなわち大平の世の礎となるのだ」
「そんなのは百も承知だ!
俺は孤独なんだ!
俺を理解する者は家中に誰もおらん!
なあアキヨリ俺の愚行を引き止める為でもなんでもかまわん
俺のところに来てくれ力を貸してくれ後生だ…」
ヒデカツは膝を付き頭を下げた
「やめろ!
どんな理由だろうと俺はここを離れる訳にはいかん
もうここをつきとめられてしまったからには仕方ない
忙しい身だろうがいつでも愚痴をこぼしに来てくれ
すまないが俺にはそれしか出来ん」
「アキヨリさまー」
アキヨリを探しに来たのだろう
リッカの声が近付いてきた
「美しい人だ…
奥方なのだろう?
お前がここを離れられない訳とは言わずとも分かる」
「理解してくれとは言わん
今の俺の生き方は武士の価値観とは遠く離れたものだ」
「身重の身ながらお前を守り抜くという気概を全身から発していた
深い結びつきを感じる
今すぐとは言わん
最後にもう一度言う
後継ぎ奥方と供に俺のところに来てくれ」
「あっ!アキヨリ様何時の間にこんなところまで…」
リッカはアキヨリとヒデカツが対峙しているのを目の当たりにし
言葉を失った
「奥方 心配無用で御座る
察しの通りアキヨリを連れ出す為に参った
しかし無理強いはいたさぬ
本日はこれにて失礼つかまつる
ニザエモン殿にはリッカ殿の工房にお連れ下さりながら
先に帰る非礼をヒデカツが詫びていたと
山小屋に待たせてある家臣達はお供させるようそのまま残して行くとお伝え願う
ではさらば!」
ヒデカツは風のように去って行った
アキヨリもリッカも別れの言葉はとうとう口に出せず終いだった




