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六角の花   作者: フミ
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来訪者

「桃の花がきれいだねぇ

このお馬さんに乗ってると景色がいいよ

あたしゃだんぜん花と言えば桃やら梅がいいねぇ

ババァにゃ桜はすぐ散ってしまうから身につまされて嫌なんだわぁ」


「何を仰いますやら

イヨ姉様とてまだまだ花盛りでございましょう」


リッカの屋敷の庭は桃の花が満開である

歳の頃は四十半ばだろうか

イヨ姉様と呼ばれた女性は大きな風呂敷包をアキヨリに持たせ

自分はアクヤに姉さん乗りで跨り満面の笑みで桃の花に見入っていた

アキヨリは手綱を引き自らの足で歩いている


「まったく!この色男は!

おべっかが上手だよ さりげないね

あたしゃ鼻血が噴き出しちまうよ

いや鼻血だけじゃないね」


「イヨ姉様それまで!

いつもこんな山奥までご足労願っておりますからにはお世辞の一つも申し上げもいたします」


「お世辞と言ったくぁ!」


「いや!これは失言!」


「あきゃきゃきゃ

いいんだよいいんだよ

あたしゃこんな立派な馬に乗っけて貰って色男を引き連れて

毎回毎回お姫様になったような気分なんだぇ」


「はっ?イヨ姉様は姫君ではなかったのですか?」


「うわっ!またこの糞色男!

産婆つかまえて姫君と言いやがったよ!」


「あははあはは

あっ!あれ?オタマもういいのか?」


縁側から庭に出て来たオタマにアキヨリは心配そうに声をかけた

オタマは腕に大切そうに何か抱いている

それは産まれたばかりの赤ん坊だった


「うん、うん、母ちゃんも赤ん坊も顔色がいいねぇ

よく乳をのむかぇ?」


オタマは大きく何度も頷いた

工房の窓からはタノスケが心許ない顔を出してこのやり取りを細い目で見つめていた

赤ん坊も眠っているのではないかと思うほど目が細い

つまりタノスケとオタマの赤ん坊だった

リッカとアキヨリの事もあっての事なのか

只々気恥ずかしかったのか

オタマのお腹が大きくなるまで二人は言い出せずにいたようだ


勿論リッカとアキヨリが仲人となり

慎ましいながらも賑やかな祝言が執り行われたのは言うまでもない

アキヨリは歌や笛だけでなく剣舞も披露した


もう安心したのかリッカは太刀や甲冑や朱槍の在り処をアキヨリに明かしていた

手入れしないと大変な事になる

仲間との思い出の詰まった大切な物だと泣き付いて教えて貰ったのは言うまでもない


「オタマの方はもう心配いらないねぇ

リッカの方はどうだぇ?」


「はい体調が悪いような事は殆ど申しておりません」


「うん、うん、それじゃ上がらせて貰うよ」


イヨ姉様は勝手知ったるといったぐあいにリッカの部屋まで迷わず辿り着き襖に手をかけた


「リッカ入っていいかぇ?」


「ああ!イヨ姉様!どうぞ」


リッカは奥の自分の部屋で机に向かい何やら書いているようだ


「あらリッカ何を書いているんだぇ?」


「おとなしくしてなくていいのか?リッカ」


「イヨ姉様 遠いところご足労でございます

なんだかそわそわしてしまって

あの産まれて来る子の名前を考えていたのです

あまりじっとしていてもいけないのですよねイヨ姉様」


「うん、うん、あたしが来たからには大丈夫だょ

様子見ながら出来る事はしたらいい

色男もリッカも初めての事だから心配だろうが大船に乗ったつもりでいなぁ」


「もうおかしいのよイヨ姉様

わたしが気分が悪いなんて言おうものなら

この人どうしていいか分からなくなって

只ぐるぐるその場で回り始めるのよ」


「あきゃきゃきゃきゃ

男なんてそんなもんだよ

男には男の役割女には女の役割があんべ?

男の役割の時には凛々しいだろうに

なぁ色男」


「助かりましたイヨ姉様

そろそろ俺は仕事に戻ります

リッカ覚えておれ」


アキヨリが席を外すとイヨ姉様は風呂敷包を解き診察の準備にとりかかった

その時だった


「突然で申し訳ございません

リッカさんはご在宅でしょうか?

ミクリヤでございます」


屋敷の門の辺りから聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきた


「あっ!ニザエモン様の声だわ!

大旦那様がお越しになるなんてどうかしたのかしら?」



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