見つけたぞ
「ヒデカツ様ようこそおいで下さいました
寒う御座いましたでしょう」
「ミクリヤ殿
門をくぐる作法はこれでよいのですか?」
「一般的な作法で充分で御座います
あれこれ形にこだわる輩は茶の湯の深淵さを理解する事を放棄した連中で御座います」
ナリカワ ヒデカツは茶の湯の手解きを受けに
貿易港サカイにあるミクリヤ ニザエモン邸を訪れていた
ニザエモンは下級武士の出身で木材の売買で財を成し
今では旧知の間柄であったゴクラクサイの茶器を用い茶の湯、茶道を確立した人物である
当時大名の間では茶の湯が大流行していて
いくら戦で功名をあげようと
領地を広げようと
茶の湯の理解がなければ田舎者不粋者と要するにナメられるのである
父ナリカワ ヒデミツが事実上の天下人となった事もあり
武勲とは異なる事柄をヒデカツは求められていた
「そう言っていただけると気持ちが楽になり申す
決まり事で雁字搦めになるのは飯を抜かれるより辛う御座います
そんな性分なもので正直茶の湯は毛嫌いしておりました
ですが茶器には心惹かれるものがあります
今は亡きオアイ様に見せて頂いた
九十九髪茄子には目を奪われました」
「ほほう
先ほどは形にこだわるなと申し上げたばかりですが
形から入るのも一つの手で御座います
どうでしょう
お気に入りの一品を選んで頂いてそれを使い茶の湯を楽しんで頂いたら
苦もなく上達なさるのではないでしょうか」
「さすがミクリヤ殿商売上手
なんだか急に楽しくなってまいりました
早く見せてくだされ!」
ヒデカツは茶室に入るより先に茶器の陳列された部屋に通された
「これは素晴らしいものばかりだ
おお!この茶碗は特に素晴らしい
だが拙者には到底手が出んなぁ」
「お目が高い
それは今は亡きゴクラクサイの作に御座います
今はご子息が跡を継ぎ良い作品を数多く創り出しております
そちらでしたら値段の方も勉強させて頂きます」
「茶の湯に疎い拙者もゴクラクサイ殿の名は聞き及んで御座る
なるほどご子息の作品も素晴らしい
だが…」
「何かお気に召さない点が御座いますかな?」
「素晴らしいのだが最初の一つとなると…
拙者という人間を代弁してくれるというか
拙者と同じ色というか
分かっては頂けないだろうか」
「お気持ち良く分かります
どうぞ沢山ございますから心ゆくまでご吟味下さいませ」
「貴重な時間をかたじけない
お言葉にあまえさせて頂きます
納得が行かないと前には進めぬ性分なのです」
「手前味噌で御座いますが
お気に入り頂けるものが必ず御座いますよ
茶室の用意をしておりますから決まりましたらお声掛け下さいませ」
「決まった!これだ!」
「全部ご覧になってからがよろしいのでは?」
「いや、これ以外に無い!
この茶碗は拙者そのもので御座る!」
「ほほう!やはりというか
わたくしもその茶碗をお気に入りになるのではないかと思っておりました
その作品は新しく入ったお弟子さんの作品で御座います
猛々しさというかそういったものがよく現れておりますな
お買占めなさってはいかがですかな
今に相当な値のつく作品で御座いますぞ
ほほほほっほほほほっ」
「………」
冗談を言ったつもりのニザエモンであったが
ヒデカツが茶碗を見つめたまま何も答えないので
この煩わしいくらい真っ直ぐな若侍の機嫌を損ねてしまったかと
茶碗の一つでもくれてやらねばなるまいと思案していた
「よろしかったらヒデカツ様
その茶碗ですが
そんなにお気に入りでしたら貰ってやっては頂けませんか?」
「ミクリヤ殿
この茶碗を横から見たこの曲線何に見えますか」
「はっ?何にと言われましても
ああ、弓で御座いますかな?」
「そう拙者も弓に思えてなりません
問題なければこの茶碗を作った御仁の名をお聞かせ願いたい!」
「はぁ…申し訳御座いませんが
新しいお弟子さん故
名前はおろかお会いした事も御座いません」
「ではゴクラクサイ殿の工房はいずこの地に?」
「アキの国ホウライ山で御座いますが…」
「なるほど!合点が行った!
このなんとも言えぬ曲線の弓を作る男を拙者は知っている!」
「なんと!
お知り合いでしょうか?
どちら様でございましょう?」
「ミクリヤ殿それは約束故口には出来ぬ」
「それはどんなお約束で?」
「いや、いや、もうこの話はこれまでという事にして下され」
「はあ…そう仰るのでしたら…」
ヒデカツは心の中で叫んだ
「とうとう見つけたぞアキヨリ!
何をしているかと思えば茶碗など焼いておったか!
いくら探しても見つからない訳だ
会える日が待ち遠しいわ!」




