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六角の花   作者: フミ
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舞い降りては溶ける手のひらの結晶

もう日が暮れたというのにリッカの工房は昼間のような明るさである


御来屋から買ったランプが異常な明るさで燃えているのだ

しかし少しも熱くは無い


昼間ゲンに陶芸の真髄ともいえる助言を貰ったアキヨリが目を剥き髪を逆立てて

鬼気迫る集中力を発揮していた


今作業を終えてしまったら明日には忘れてしまうかもしれない

そんな焦りがランプの油の燃える現象を熱ではなくほぼ光に変えていた


それは歴代のアキヨリと同じ力を持った先祖も成し得たことの無い神業とも呼べるものであるにも関わらず

彼は作業に集中していて全く気付いていないようだ


「アキヨリ様そろそろ…

あの…お体に障りますよ…

ああ全く聞こえてない

それにしても何なのこの皿は

このおかしな突起達もなんだかここにあって当然のような気がする

理由があってここにある気がする」


「そうだ!理由なんだ!」


「ひっ⁈」


「魚の形は泳ぐ為にああじゃなきゃいけない!

リヨウの形はあのバカでかさで飛ぶ為にああじゃなきゃいけない!

アクヤの形はあのバカでかさで速く走る為にああじゃなきゃいけない!

蝶番は曲がる為にああじゃなきゃいけない!

登り窯は熱を効率良くまわす為にああじゃなきゃいけない!

美しいものには理由がある!」


「は!はい!その通りです!」


アキヨリにはリッカの合いの手は聞こえていない


「俺がこの世で一番美しいもの

それは!」


「なんでしょう⁈それは!」


「人のこころだああああ!!!

己を犠牲にして俺を産んでくれた母上のこころ!

いつか必ず平和な世の中が来ると俺に命を預けてくれた

タキのこころ!

領民の為家臣の為血の滲むような研鑽修練を積み重ね続けた

兄者のこころ!

人々の日々の暮らしを愛し脅かすものを打ち倒す刃となり

この国の未来に命を捧げ日の本の盾となった

兄上のこころ!

過酷な運命に負ける事なく人を愛すること慈しむ事を放棄しなかった

ゲンのこころ!

俺はそれらをかたちにしたいんだああああああ!」


「わたしのこころはどうなんですか!」


「あ⁈」


「わたしのこころです!」


「聞いていたのか」


「あんなに大きな声ですもの部屋にいる皆にも聞こえていますよ

答えて下さい わたしのこころは?」


「リッカの心か…

それは何となく分かるんだ」


「どんな形なんですか?」


「六角形だ

三角みたいにとんがってないし

四角や五角みたいに底辺がどっしりしてる訳じゃない

どのら角度から見ても光を放っている

リッカと心が通じ合ったと感じる時

沢山の六角形が隙間なく重なり合う万華鏡を覗いた気持ちになるんだ」


「うふふ

アキヨリ様は不思議な事ばかり仰います

ねえこんな感じですか?」


リッカはアキヨリの手を引いて工房の外へ連れ出した

外は夕方から粉雪でもなくボタ雪でもない

雪らしい雪が音もなく降り続いていた

リッカの上に向けた手のひらには

次々に雪が降り積もった

開け放った工房の戸からはランプの昼間のような灯りが漏れ溢れている


「アキヨリ様のおかでよく見えます

ねえ早く見て下さいすぐ溶けてしまうんですから」


「なんだ?

ああ!そうだ!そうだ!

雪はいろいろな形があるが全て六角形だ!」


アキヨリは目の前に差し出されたリッカの手のひらを

眼球が触れるのではないかという位顔を近付け覗き込んだ


「雪にもわたしにも理由があるのですかね」


「あはは

リッカ自惚れか?

それは暗に自分が美しいと言っているのか?」


「そっ!そんな積もりで言ったんじゃありません!」


「美しい」


「えっ⁈」


「リッカは美しい

心も姿もすべてが美しい」


「アキヨリ様…」


「さあ冷えるといけない」


工房の戸は静かに閉ざされ

辺りは再び雪の放つ静かな光だけの世界となった



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