一柱の存在
「天ではない
お前を生きながらえさせているのは天ではないぞ
お前に与えられた役目ともう一つは…」
「‼‼?」
一匹のオニヤンマがアキヨリの頭上を旋回している
ギリギリ手の届かない高さで
「ほほぅ!
朕の声が聞こえるようになったとな
数々の試練がお前を守人の高みへと導いたとみえる
諦めず語りかけ続けた甲斐があったわ」
「何者だ!姿を現せ!」
「いやーだ
はははははははは」
「おのれぃ!俺を愚弄する事許さん!
みくびるな!隠れたところで気配ですぐ分かるぞ!」
「ほほう
そんな事も出来るのかえ?
分かりやすくしてやるから朕がどこにいるか当ててごらん
それ」
アキヨリは足元の拳程ある石を拾い上げた
気配を探り当て次第投げつけるつもりだ
彼がそんな物を投げ命中すれば即死である
心を露わにしていたところに揶揄したような物言い
完全に頭に血が登っていた
だが
「‼‼」
姿の見えない何者かの気配はオニヤンマ継いで山全体へと拡がった
「良い良い
早速捉えたか
お前のような感の良い者はヨシツネ以来でぁ」
「物の怪か!それとも山の神か!
俺を知っているなら
自らも素性を明かすのが筋であろう!」
「あははあはは
朕に人間の礼儀を押し付けるか
良いぞ良いぞ
朕に朕の素性など分からん
ただ言えるのはこの世の始まりより存在し
赤い揺らめきの化身にて空を行くものの王」
「ふざけるな!
何の理解も得られるか!
俺に何の用だ!用が無いなら去れ!」
「禅問答をしたいわけではない
簡潔に話そうか
朕もすぐ眠くなりお前と話せる時間などわずかであるからな
お前を生かしているのはお前の兄だよ
お前の兄は知っていたのだよ」
「何を知っていたと言うのだ!」
「ふぅ~う
眠い眠い
あの洞窟で眠っておればこんな面倒は無かったと言うのに
朕となりお前は再び生を受けたというのに
そしてお前は朕となったというのに
そしていつか只の朕となったというのに
朕の声に導かれあと一歩だったというのに」
「答えになっておらんぞ!
答えろ!兄上は何を知っていたというのだ!」
「その白い玉じゃ
その白い玉がさえ無ければ忘れずにすむというのに
潰してしまいたいのう
くちおしいのう
今の朕にはそんな力は無いのう
眠い眠い眠い眠い…」
アキヨリの首の数珠の白い玉が仄かに光といえないまでの光を宿しすぐ元に戻った
アキヨリの視線は何も捉えていない
只自らの眼球内に漂う物を追っているだけだ
「兄上
俺には何が出来るか分かりません
只今は目の前の事を懸命にやり遂げようと思います
愚弟をどうかお許し下さい」
アキヨリは手を合わせようとした
「ん⁈
何時の間に俺は石など握っていたのだ⁈」




