懺悔室
声を出した訳では無かった
しかしアキヨリのジョスイの名を呼ぶ声はジョスイには殺気としてはっきり聞こえた
振り向くと逆光の中の黒い人の形は倍 倍と大きくなって来る
ジョスイは何故か立ち止まりただ注視し呟く
「こりゃすげぇここでシジマの若大将のお出ましかよ
ああ足怪我してんな
あーあーあー怪我してんのにすげぇ早さだな
うわっ!馬も鷹も居やがる
はっはっはっはっ!」
「ジョスイ様いかがなさいました⁈
あっ!あれは!シジマ!
ここは我々が食い止めます!
お逃げくだされ!」
ジョスイの側近達が壁となり立ちはだかる
「逃げるってどこへだよ
食い止めるってどうやってだよ
どう見たって終りだろうよ
俺ぁもう疲れたよ
あいつと話がしてぇどきな」
ジョスイは四人の壁を押し退け前に出た
「久しぶりだなぁ若大将!
元気そうで何よりだ!」
「ジョスイ!覚悟が出来たようだな!」
「覚悟か…とうの昔に出来てた筈なんだがな
おい!そのまま走って来て首をへし折るのは無しにしてくんねぇか⁈
聞きてえ事があんだよ」
アキヨリは三歩手前で立ち止まった
それは一つの動作でジョスイの命を断ち切る事が出来る間合いである
「敗れたのか」
「ご覧の通りだよ」
側近がジョスイに耳打ちする
「ジョスイさま こやつ丸腰ですぞ恐れる事など御座いますまい」
「だから なんだよ じゃあおめえやってみろよ
俺ぁおっかなくってとても出来ねぇよ」
「聞きたい事とは何だ!」
「そう いきり立つんじゃねぇよ
今迄どこに居たんだい
さしずめ大怪我してかくまって貰ってたんだろ」
「それだけか聞きたい事は」
アキヨリは一歩前に出た
「おい!おい!おい!答えねぇのかよ!
お前だって聞きてぇ事があんだろうよ
鷹が居るってことは おめぇの兄貴の事は知ってんだろ
俺ぁあいつが最後にあの鷹に何か託したのはっきり見たんだ
悠長に長々と大きく手紙なんざ書いてる暇ぁ無かった
大まかな事は知ってるが詳しく知らねぇ
違うかい⁈」
「さっさと話せ」
「虫のいい事言うんじゃねぇよ
俺の質問が先だ
おめえに大怪我負わせたのは誰だ⁉
トウドウなんだろ⁈
あいつは最後までおめぇを追い詰めて苦しめたんだろ⁈」
「そうだ!右足が動くようになったのは ついこの間だ」
「そうかい そうかい
それだけが気掛かりだった
あいつが眠ってんのはどっちの方だい⁈」
「この山のアトウ領側の間道だ」
アキヨリは指差した
「そうかい…
トウドウ聞こえるかい⁈
よくやったぜ褒めてやるよ
つまんねぇ人生送らせちまったな
すまなかった
でもこんな化けもん追い詰めたんだ本望だろ?なっなっ⁈」
ジョスイはアキヨリの指差した方に手を合わせた
「笑っちまうだろ⁉若大将
デウスに帰依した おいらが死人に手を合わてやがる
あーはっはっはっ」
「おかしい事など一つも無い‼」
「ありがとうよ若大将ありがとうよ
今から俺がおめえを見失ってからの事かいつまんで話してやる
細けぇ事は勝手に想像しな」
ジョスイはその場にどかりとあぐらを組んだ
「先ずアトウのとこで おめぇに奇襲をかけた軍を指揮してたのは俺だ
逃げるおめえを追いかけるのに
何をびびってたのか半分以上の兵で追いかけちまった
そこにあの猛吹雪だ
命からがらアトウのとこに戻ったらアトウの野郎自分らも砲撃されたのを怒ってやがって攻めて来やがった
吹雪でぐだぐだになってた俺達はもちろん全滅だよ
イスパニアの軍艦でトミナリ城に向かってる本陣に逃げ帰ったよ」
「貴様に加担していたのはイスパニアであったか!」
「そんなこたぁもうどうでもいいだろうよ
要はてめぇにびびって何でもかんでもやっちまった俺の落度だ
でだ
このままじゃぁ鉄砲を援助されようが軍艦を借りようが勝ち目はねぇ
そこにイスパニアのやつら付け入って来やがった
兵を出すから俺とヤツらの間の取り決めを大幅に変えると言って来やがった」
「取り決めとは何だ!」
「俺がこの国ぶん取ってからのヤツらとの商売の事だよ
ヤツら商売だけじゃなく政まで口を出すと言って来やがった
そんなの認めちまったらたちまちこの国は植民地だ
もちろん断ったね
そんなこんなでぐだぐだ揉めてたらもうトミナリ城に着いちまった
そしたらだ!」
ジョスイは身震いした
「もったいぶるな!」
「そしたらだ
おめえの兄貴が先頭に立って鬼のような顔して攻めて来やがった
恐ろしかったよ ああ恐ろしかったよ
あの日から毎晩おめえの兄貴が夢に出て来やがる
俺達は刃を交わさず逃げたよ」
「兄上は勝利したのか⁈」
「ああそうだよ
だがなそれじゃ話がおかしいだろ
その翌日だイスパニアの軍艦が
うじゃうじゃイワヤの港に現れて
二万近い兵が最新の鉄砲もって出て来やがった
顔見たらな南蛮人の顔じゃねえ
印度かそこいらのヤツらだ
多分もうあそこらの国は占領されちまってんだろう
これぁ一大事だってんで俺ぁアキマサに共闘を願い出た」
「なんだと!貴様命惜しさに嘘をついてはいまいな!」
「嘘つくならもっとマシな嘘つくだろうよ
だがなナリモトのヤツがイエナガを道連れにしたせいか
送った使者は耳しか帰ってこなかったよ」
「兄者は!兄者はいかにして!」
「アキマサを爆発から庇って死んだとよ」
「兄者ぁぁあああ!」
「ヤツめ取り乱しております
逃げるなら今かと」
「だまってろぃ
俺も抵抗したよ
そこでまた見ちまったアキマサの鬼面をよ
ここが日の本の未来の分水嶺だとか叫んで突っ込んで行ったよ
凄まじかったよ
軍艦も半分以上沈めちまった
だがよ大将が先頭に立つことぁねえよ
おめえといいシジマのヤツらはイカれてやがる
血だらけになって鷹を呼んでたよ
ああ認めてやるよ おめえの兄貴は日の本一だ!
おめえの兄貴が日の本を守ったんだ!」
「うあぁぁぁぁ!兄上!兄上!」
アキヨリが人の腕程の太さの木を殴りつけるとメキメキと音立て倒れた
「イスパニアのヤツらは逃げてったが大将が死んじまって殆ど残らなかったが
シジマの兵達も死人みてえだった
ほっといたらみんな自害しちまう
とりあえず城に集めてなんやかんやしてる内に三月も経ってた
気付いたらナリカワの野郎に囲まれてたよ
ミナヅネ様シジマの仇討ちだってな
勝てるわきゃねぇよ
でこの有様だ」
「礼を言う…聞かせてくれたこと」
アキヨリは全ての葛藤を木にぶつけたのか落ち着きを取り戻していた
「あっ?おめえに礼を言われる筋合いはねえよ
さあもう この首には用はねぇ
俺はおめえが出て来てほっとしたんだ
三月の間生きた心地がしなかったよ
辛ぇ辛くてしょうがねぇ
おめえが俺の最後ならこれ以上はねぇ
気が変わらねぇ内にへし折るなりブチ砕くなり踏み潰すなり早くやれ!」
「去れ」
「あっ⁈」
「去れと言ったのだ
頭が煮えて忘れていた
俺はもう誰も殺めん」
「ふざけるんじゃねえ!俺ぁてめぇの仇なんだぜ!」
「いたぞーサナガ ジョスイだー」
「追手だ!
てめえ以外にやられたら死んでも死にきれねぇ
早くしろってんだよ
ああそうだ!てめえらは早く逃げな
生きていたとこで毒にも薬にもならねぇヤツらだ
いいだろう?若大将」




