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六角の花   作者: フミ
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真昼の天の川

真昼の空に天の川があったとする。

しかしそんなものは見えはしない、星々のささやかな光をいくら集めようと太陽の光に紛れ、かき消されて見えはしない。

しかし今、封神壇のそこかしらから立ち上る星々は真昼の光の中にあって、その存在を主張するに余りある眩い光を放つ。

一つ一つが太陽を凌駕するならば、天空の一点に集約し東の空へと向かう流れから放たれる光は、城壁の影になって直射を免れるフミ達のいる所が夜であるかの様な錯覚を、対比或いは落差により覚えさせる程の眩さだった。


「ヨシツネ様…シズカ様…いってしまわれたのでございますか…」


フミが呟く。


「酒を飲んでくれるんじゃなかったのかよ、一緒によ…」


唇を噛み締めるキリュウがうなだれる。


「ヨシツネ様ぁああ!ヨシツネ様ぁああ!ヨシツネ様ぁああ!」


ぶり返す尻の痛みに連呼するのは、鉄産球の柱にしがみついたマタハチ。


誰もが真昼の天の川の意味を、何の説明も無いにも関わらず、送り火であると理解したのだろう。

人と人との関わりが真誠(しんせい)であるか否かは、時間の長い短いとは関係無い。

真心があったか無かっただという事なのだろう。

ヨシツネの真心は猛者達の胸に深く深く刻まれた。


真っ白に照らされた惜別だった。

戦いと血と身に纏う鎧の赤、怨念と復讐の黒、その二色に染め尽くされたヨシツネの生涯は、猛者達の清々しさと、シズカの愛により、最後の最後に真っ白に照らされた。


城壁の影の様に強い光は闇を際立たせる。

真っ白な封神壇に真っ黒な一点があった。


「とっくに死んでたって事なのかい…

やけに速過ぎると思ったよ。余計な血肉を背負って無かったなら合点が行くよ。

私の術を無効化する為、自分の術に焼かれぬ為、シズカ姉さんと過ごせる此れからをかなぐり捨てたってのかい…

一体いつから…南蛮かぶれの小僧に血をくれてやった時には確かに生身のヨシツネだったよ。

シズカ姉さんを受け止めた時?私の氷柱をコケにした時?

シズカ姉さんも生身じゃ無かった様だし、そうすると受け止めた時かね。

どうでもいいさ、今となっちゃ確かめる術もありゃしないよ。」


白い吹雪の女王ソヤカは、真昼の天の川を黒く黒く睨め上げていた。

ヨシツネを倒し、封神壇を防衛する絶対の自信を砕かれた冷や汗なのか、額から頬に一筋の汗が伝う。

いや、そうとも言い切れない。

気温が暑いのだ。火炎渦巻く戦闘が繰り広げられた封神壇であはあるが、熱風が通り過ぎた後の隙間には、すぐ様 真冬以上の寒風が滑り込み差し込まれた。

地熱を原動力とし、地中の火の神に御山の守人の冷の力をねじ込ませる仕掛けが機能していたのである。

それが今は無い、笛の轟音が止んだのはヨシツネが去った事を意味しているだけでは無い。

鳴らす陶の管が破壊され尽くした事も意味していた。

封神壇の機能は最早 完全に失われていた。


しかしソヤカが跪く事などは無い。

不凍の池の水を使い封神壇を氷で覆う術策は、放たれながら未だ出現してはいないのだ。


「氷さえ、氷さえあれば封神壇の機能を再生出来るよ。

それに暫く経てば勝手に管はまた生えて来るのさ。

ヨシサダの奴も大した仕掛けを考えたものさ。しかし気が知れ無いね、苦労して自分でこさえた物を、今度は自分で壊そうとするなんてね!」


ソヤカはダンザ或いはドウゼン、その内一方の弾丸を喰らう覚悟で、その包囲から飛び退いて逃れようとした。


「何のつもりだい?!小僧ども!!」


しかしダンザの大狭間銃の銃口はソヤカの胸から外れ下を向き、ドウゼンの馬上筒は彼の頭の上で真上を向いていた。


「ふざけんじゃ無いよ!また情けをかけたつもりかい!!

私にはもう成す術が無いとでも思ってるのかい!!」


苛立ちを撒き散らすソヤカに対し、ダンザは閉じた目に何かを映し静かに答えた。


「この期に及んで喚かれるな。ソヤカ殿の目は眩んでいるのか、それとも曇っているのか。

いずれにせよ勝った負けたとの下らぬ概念に囚われておったなら、見るべきものも大切なものも見過ごすと言うものだ。」


ダンザは何を見ろと言うのだろうか。その真意を測りかねるソヤカは、ダンザに完全停止の術を掛けるにも はばかられ、今最も注意を向けるべき闘技場の少し東、天の川に置いていかれた光が集約する一点に目を向けた。

封神壇の機能が失われたた今、地中からの地熱と共にやって来る者がいるのである。


真昼の天の川が東の空へと去ったからなのか、封神壇は元の昼過ぎの明るさに戻りつつあった。

しかし元の明るさに戻りながら更に暗くなり行く。

その仄暗い城壁の向こう側に、音も無く赤い光を放つ何かがせり上がる。

溶岩である、溶岩が地表に現れる現象は噴火であるが、それは地鳴りや地響きも伴わず、噴火とは掛け離れ静かに静かにそそり立って行く。

それは造語を許されるなら、ソヤカの氷柱に対し溶岩柱と呼ぶべきだろう。

溶岩柱は次第に太さ高さを増し、遂にソヤカの術により出現した氷柱と伍する迄に至った。


「下らぬ矜持と言う無かれ、似通う物があるならば。僅かでも大きく高くと気張るが武士の一分よ!」


溶岩柱が言うように、氷柱より一回り太く高く、赤々と誇らしげな隆起は封神壇の様々を見下ろした。

すると可燃性の気体でも纏っているのか、ゆらゆらと赤い炎を纏い始め、その様相は左右に枝を伸ばす 七支刀 ナナツサヤノタチを思わせた。


「この様な頼りなき炎は我が炎に非ず!我が炎は青き刃なり!!」


ここで初めてフイゴに煽られる炉の炎に良く似た低く響く音。

それが次第に耳をつんざく高音に達すると、揺らめく赤い炎は真っ青な光を放ち、触る者皆切り裂く鋭利さを天空の一点に突き刺した。

そんな物を突き刺された天の怒りなのか、薄暗闇を一瞬で吹き払う雷が溶岩柱を襲った。

眩い稲光り、轟く雷音、そしてそれらを凌駕するのは、原動力とする地熱から離れられぬ木偶人形ながらシジマ家開祖、シジマ ヨシサダ。


「シジマ ヨシサダ!見参!!」


真っ二つに引き裂かれ倒れ行く溶岩柱の間には、真っ青に噴き出す炎を纏った濃紺の大鎧が、赤い隈取りに涼しい微笑みを浮かべ、親指で鼻を擦りソヤカを見下ろしていた。



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