仇の象徴
「お願いです!
そんな無茶をなさらないで下さい」
「リッカの作ってくれた家臣達をゴクラクサイ様の墓のある高台に持って行きたいと言ったら
快諾してくれたじゃないか」
高台からは東の空が良く見渡せる
故郷の三鴨山は遠過ぎて見える訳ではないが
皆に少しでも寂しい想いをさせたくない
アキヨリの願いをリッカが断れるはずは無かった
もとより三ヶ月での急ごしらえではあったが
シジマ家と関わりがある者であればどれが誰とはっきり判別できる程の秀作である
世に出回れば物議を醸す
売り物にはならない物であった
「そんな事を言っているんじゃありません
何故アキヨリ様が背負っているんです
アクヤちゃんが運んでくれると思っていたのです
まだまだ足は不自由なのですよ!」
「動くようになったのだ
動かさない手は無い
早くこの素麺のような右足をなんとかせねば
それに俺がこの手で運ばずに何の意味があるか」
「もう
どうせ聞いては下さらないのですからもう言いません
アクヤちゃんリヨウちゃん
利かん坊のお供お願いね」
心配ではあったがアクヤとリヨウがいれば心配はないだろう
ついて行ったところで
人の手を借りる事を極端に嫌うアキヨリに煙たがられるに決まっている
「じゃあ行って来るよ
んがっ!」
ヨタヨタしながらも一体目を無事に運び終えた
「なあタキ
いつかまた行こうな三鴨山に…」
タキの肩に肘を乗せ寄り掛かるような姿勢は
ついこの前まで良く見られた仲のよい二人そのままであった
アキヨリが皆に見せられる顔に戻るまで
そのままの姿勢で半時程かかった
十年経とうが二十年経とうが
癒えない傷というものはあるのである
ましてや数ヶ月である
仕事にならなくなるので一日に運ぶのは一体とした
「カズナリ寂しい想いをさせたな
お前で最後だ
お前には足を挫いた時
こうやって背負って貰った事があったな」
「アキヨリ様お気を付けて
最後というものは気が緩みがちなものですよ」
片手を上げて背中で応えた
また見せられる顔ではないのだ
右足は本調子ではないが
十二体目を運ぶ頃には見違えるように回復していた
手ぶらで走れば常人並には走れるのではないだろうか
「みんな最後まで良くこのアキヨリに力を尽くしてくれた
心より礼を言う
ありがとう…」
高台に並ぶ十二人 一人一人に礼を言いながらまた人には見せられない顔になってしまうのであった
ドアァァァンッッ……
遠雷かと思われたが空が鳴っているのではない
どこか遠い地上からの炸裂音である
「大砲⁈どこだ⁈」
やまびことなって響いて聞こえて来て方向を特定出来ない
少し離れた所に巨大な岩が
風雨に流された土壌から取り残され そそり立ってアキヨリを睥睨している
「あれに登れば かなり遠くまで見渡せるな
だがさすがに今の俺には登れんな
リヨウ手を貸してくれ」
「ピピィ」
リヨウはアキヨリの帯を両足で掴み羽ばたいた
だが持ち上げて飛べる訳では無い
それでも体重は文字通り羽が生えたように軽く感じられ
垂直に近い岩の斜面を不自由な足ながら跳ねるように登る事が出来た
岩の頂きに辿り着き
「重かったぞ」
と言わんばかりにリヨウが帯を離しアキヨリの尻を蹴った時だった
ドアァァァンッッ……
「まただ!どこだ⁈」
四方を見渡すと南の山間にかろうじてトミナリ城の天守閣が見えた
「うおぉぉぉぉおお!!」
アキヨリの血は煮えたぎった
天守閣には巨大な十字架が掲げてあったのだ
「ジョスイ!ジョスイ!ジョスイィィィィ‼」
ドアァァァァンッッ…バアァァン…
三度目の炸裂音の後
十字架は木っ端微塵に飛び散った




