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六角の花   作者: フミ
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あなたが欲しい あなたじゃわからん

「おい!いや!ちょっと待って下さいリッカ いや!師匠」


「なんです⁈話し方は普段通りでいいじゃないですか」


「いや教えを乞うているのだ俺にとってリッカは師だ

いや!問題はそこじゃない

俺が描いた色と全然違うじゃないか!」


「ですから焼き上がりの色は変わるのですと何度も申し上げているじゃないですか」


「それにしても違いすぎる

こんな黒ずんだ色が赤い色に変わるのか?」


「アキヨリ様達の鎧は猩々緋でしたが私は辰砂の紅を出す事が出来ます

自分で言うのもなんですが それは鮮やかですよ」


「赤にもいろいろあるのだな

分かったリッカを信じていないわけではないのだ」


「でしたら土を捏ねる手を休めないで下さい

焼き物というのは土の状態を均一にしないと割れたり歪んだりするのです要の仕事なのですよ」


「はい!分かりました」


「あぎ いいへんじ あははは!」


「うむ ゲンも俺にとっては師だ

皆も改めて よろしくお願いします!」


工房はいつもに増して活気に満ちていた

色を付けるにあたってリッカは細かな色を確認する為

アキヨリに十二人の絵を描くよう頼んだところ

実に手早く見事に描いた

その絵を参考にリッカは釉薬を調合し素焼きの十二人に色を付けているのだ


アキヨリは興奮しているのかいつもに増して口数も多く

家臣達を和ませ励ましていた頃の彼に戻っているように見えた


しかし今は亡き十二人の姿が目の前にあるのだ

リッカ達が仕事に集中し始めると聞こえてくるのは蝉の声ぐらいで嫌でも昔を思い出してしまう


「仕事に集中するのだ

あれこれ考えて今やるべき事がおろそかになれば後悔することになるのだ」


「アキヨリ様どうです?出来ました?」


「ああ…はい!出来ました見てやって下さい」


リッカは無造作にアキヨリが捏ねていた土に全体の様子を確かめるように何度手を突っ込むと

少し驚いたような表情で


「アキヨリ様凄い!

非常に良く仕上がっています

ただ捏ねていただけでは無いのが分かります」


「はい!頭の中で土の様子を想像しながら捏ねました

武術や操炎術の修業が役にたったのだと思います」


「やっぱり何か一流になるまでのものを身に付けた人は違うのね

でもどうしよう

こんなに早く仕上がるとは思ってなかったから もうアキヨリ様の仕事は無いの」


「掃除でもなんでもやります」


「もういいかげんにいつものあなたに戻って下さい 疲れます

あっ!そうだ!」


リッカは捏ねあがった土を五分の一ほど取り分けた


「ねえアキヨリ様これで何でも好きなもの作ってみて」


「えっ!いいの⁈やった!」


「上手に出来たら焼いて差し上げます

頑張って下さいね

さて私は轆轤の仕事が残ってますから」


一心不乱に作業するアキヨリの後ろ姿がリッカには初めて会った頃の少年が重なって見えて嬉しくてたまらなくなり

それが影響したのかその日の作品は自分でも満足の行く物が数多く時間も忘れ没頭した

日も落ちて作業がままならなくなるのが惜しくてたまらなかった


「今日はもう休みましょう

みんなお疲れ様でした」


「なんだもう終いか ああ楽しかった」


「アキヨリ様何が出来たのですか?」


リッカがアキヨリの作業台を覗き込むと二つの面が並んでいた

薄暗くなってしまった工房であったが見事な出来栄えなのは見てとれた

リッカは胸が踊りもっと詳しく見たくなり蝋燭の火を近づけると

蝋燭の火がパッと急に明るくなった


「よく見て師匠

結構良く出来たと思います」


「アキマサ様とイエナガ様…

面影があります…凄い…凄いわアキヨリ様!」


「リッカが作ってくれた十二人を見てたら兄達も加えたくなったんだ」


まずリッカの心は嫉妬に支配された

常人が真似て作れる物では無い

長い間修業したリッカにでさえそれは同じ事

荒削りな感じが還ってアキヨリの才を際立たせた

そしてその才がリッカに新しい感情を芽生えさせた

もともとアキヨリに対しては

その優しさや責任感や心意気や仕草そして容姿

全てに並々ならぬ好感を抱いていたが彼の才を目の当たりにして

「欲しい」

そんな感情が心よりも体の奥から湧き上がり それは喜びや嬉しさでは無く苦しみめいたものであった


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