呼ぶ声 引き裂く声
夏の遅い夕暮れをアキヨリとリッカが見晴台で眺めていると
「アキヨリさまー夕食の用意が整ったそうでーす」
「ありがとうタキ今行くよ」
三人が食事の用意された広間の襖を開けると
酔っ払ったナリマサがぐるぐる回りながらバイオリンを弾いていて
数十人の三鴨山砦の守備兵達も赤い顔をして何の踊りなのか原型も分からない不思議な踊りを踊っていた
中でもゴクラクサイの踊りは異彩を放っていた
「お父様 気持ち悪い!」
「なんだよみんな もうできあがってんのかよ」
「遅いぞアキヨリもう俺は弾けん後はお前の笛に任せたー」
ナリマサは倒れイビキをかき始めた
「わっはっは若様 景気の良いのを頼みますぞー」
「皆さん楽しい人ばかりね
アキヨリちゃんまた聞かせて」
「しょうがないなぁ」
アキヨリが皆の輪の中に飛び込むと広間の襖が外れんばかりの勢いで開き黒い何か巨大なものが現れた
よく見知ったものであったがあまりの場違いさに皆頭で理解しそのものの名を思い出すまで少し時間を要し
そして固まった
身の丈八尺はあるツキノワグマであった
ツキノワグマは言った
「やはりアキヨリがおったか
三本狼煙がたった今あがった!」
ツキノワグマは跳躍し皆の輪の中央に着地し倒れた
「兄者!三本狼煙本当か!しっ!しかしこの熊は?」
空いた襖にイエナガが立っていた
彼が仕留めたのか背負っていた熊を広間に投げ飛ばしたのだ
「ここら辺で人攫いが出ると聞いて
また山賊が出たかとめぼしい所を探していたらこいつだった
人の味を知ってしまったのだろうな
気の毒だが仕留めた」
「イエナガ!でかくなったなぁ」
「あっゴク爺ちゃん!いつ来たの?」
「今帰るところだよわりぃなぁ」
「えーなんだよ もう帰るのかよ」
「兄者!三本狼煙!」
「あっ!そうだった!
屋敷に戻るぞアキヨリ!」
「えっ⁈アキヨリちゃん行っちゃうの⁈」
「ごめんリッカ三本狼煙は一大事の知らせなんだ」
「イエナガ様 私にほんの少しでいいんです時間を下さい!
ほんの少しでいいんです!」
「あっ?ああ あんたリッカさんか
そうか…そうだよな
半時でいいか?」
「はい!ありがとうございます
アキヨリちゃんまた見晴台に行ってくれる?」
「うん」
見晴台に上ると確かに三本の狼煙が屋敷の方から上がっているのが見えた
「一体何事だろう?」
気もそぞろなアキヨリにリッカはなかなか声をかけられずにいた
別れる前にどうしても言っておきたい言葉があったのだ
「びょびびゅょ!」
食っているか眠っているかしかないアキヨリの懐の肥満児が目を覚ました
「かわいい この子の名前なんていうの」
リッカはやっと声をかける事ができた




