セレナーデ
夏空の下陽気なバイオリンの音色が鳴り響いているにも関わらず
アキの国ほうらい山へ向かうシジマ アキマサ率いるシラセ親子護衛楽団総勢二十四人の足取りには重いものであった
「おいアキヨリいつまでもしけた顔してないでリッカちゃんに自慢の笛を聞かせてやれ」
ナリマサはバイオリンの手を休めない
「やだ」
「いつまでも不貞腐れてんじゃないよ
また会えるじゃないか いいとこ見せてやれよ」
「やだ!」
「ねえアキヨリちゃんわたし聴きたい」
「うん!叔父上アイネ クライネ!」
「ナハトムジークな!
ゲンキンなやつだリッカちゃんの言うことなら何でもござれか?
このエロガキ」
「エロオヤジに言われたくないよ!」
「へっ!じゃエロオヤジとエロガキの二重奏と洒落込むか
それ ヒーフーミーヨー!」
景色が変わった
リッカの目には青々と生い茂る街道沿いの並木道の木漏れ日が踊っているように見えた
頭の中が音でいっぱいになり何故かホウライ山を流れる渓流のきらめく水しぶきや
釉薬の発色がとても上手くいった陶器や
菜の花が一面に咲いた野原や
リッカの好きなものが入れ替わり立ち替わり閉じた瞼に映り
落ち込んだ気分など瞬く間に溶けて流れ それがまた渓流となり
絶え間なく続く愛するもの美しいものの映像の締めくくりに見たいものを思い起こしリッカは目を開けた
演奏は何時の間にか終わっていて
柔らかな所作で笛から口を離したアキヨリは視線を感じて目を開けた
二人はしばらく言葉を発することはなかった




