心構え
「あっ!あの声はアキヨリちゃん!帰って来たんだ!」
「おぉぉいリッカ裸足で はしたないぞぅ
あぁ頭も天草みてえだアキヨリに嫌われんどぅ」
「はっ!いけない私ったらお父様櫛どこ?履き物はどこ?」
「知らねえよぅ父ちゃんが触ると怒るじゃねえかよぅ」
「アキヨリ‼今まで何処に行っておった‼
ゴクラクサイ様とリッカ殿の事忘れたとは言わさんぞ‼」
リッカが慌てふためいていると威厳のある怒鳴り声で障子紙が響いた
「ひっ!」
リッカは雷鳴のような声に小さく悲鳴をあげ
それゆえに心配になり頭に藻屑を乗せて裸足で飛び出してしまった
「申し訳ありません兄上
不注意で崖に落ちました
なんなりと罰をお与え下さい!」
リッカの目に仁王立ちのアキマサに真っ直ぐ向き合うアキヨリが見えた
そのすぐ後ろには慌てて馬から下りようとして鐙に足を引っ掛けてひっくり返るタキがいた
「恐れながら申し上げます
アキヨリ様がなさった事は
リッカ殿とその懐の雛を助ける為
アキマサ様もご存知のはず」
天地逆様になったタキが懇願した
「アキヨリが不注意で落ちたと言っている
俺は弟を信じる」
「ありがとうございます兄上…」
おそらく一睡もしていないだろう
アキマサの真っ赤な目と弟を信じると言う言葉にアキヨリは声を詰まらせた
「それではアキヨリ!タキ!罰を言い渡す!」
「えっ俺も!」
「役目を放ったらかして丸一日近く便所に行っていた罰だ」
「ひっ!ひぃぃ」
「先ずはアキヨリ!」
「お待ち下さい!アキマサ様!
アキヨリ様に罰を与えるなら私にもお与え下さい!」
藻屑娘が割って入った
「ならばリッカ殿の罰はこの愚弟の怪我の手当て
異論はござらんな」
「えっ!はい!はい!謹んで」
「改めてアキヨリの罰はその懐の雛を立派に育てよ
決して死なすなよ!
それとこれだ!」
ゴチン!
「痛ぃぃって…ありがとうございます兄上!」
「続いてタキへの罰は その便所で拾ってきたバカ者の面倒を見ろ!
生涯かけてだ!
分かったな!」
「はっ!ははぁ!勿体無い勿体無い罰にございます!
あぁぁおおおお!」
タキが声をあげ泣き出すとアキヨリがタキの頭を両の腕で包み込んだ
「いいなぁ…でもなんだか素敵だなぁ」
異様な様子だがリッカは憧れと少しの嫉妬を感じた
「三人とも罰の事夢々忘れぬように
以上!」
「アキマサ立派になったなぁ
惚れ惚れする程だぁ
おやじは隠居させて今すぐお前が頭領になれよぅ」
「煽てないで下さい 未だ未だ父には遠く及びません」
「あっ!ゴクのじっちゃん!」
「アキヨリ‼目上の方に向かってなんだその物言いは‼」
「ひいぃ!ごめんなさい兄上」
「申し訳ございませんだ!」
「いいんだよぅまだアキヨリは十一だろぅ」
「子供扱いして頂いては困ります
アキヨリはシジマ家を背負って立つ者になってもらわねばならんのです
此度の城攻めにも…」
「まさか!アキヨリも参加するのかぇ!
まだ早えよぅ元服もまだじゃねえかよぅ
考え直せよぅタメトモの事があってすぐじゃねえかよぅ
アキヨリがタメトモみてえになっちまぁぁぁぁ…いけね」
「拙者とてアキヨリを戦になど連れて行きたくございません‼
此度の城攻めアキヨリの力が必要なのです‼
でないと多くの家臣を犬死させるのは火を見るよりも明らかでございます
本来ならば天秤にかけるべき事柄ではございませんが
シジマ家に生を受けたならば家臣の命に何よりも重きを置かねばならんのです!」
さっき迄の怒鳴り声とは異質な感情あらわな雷鳴に場が凍りついた
「拙者は叔父上のようには決してなりません!
最後に叔父上に言付けを頂きました!
俺のようになるなと仲間と分け合えと!
仲間はここにございます!」
「アキヨリ様ー!うわわわぁぁぁぁ!」
凍っていたものを水に変える間もなく蒸発させるようなアキヨリの姿から炎のようなものが立ち上るのが藻屑娘には見えた




