俺の名はシジマ アキヨリ
反射的な行為だったかもしれない
しかし少年には勝算があった
二ヶ月前から少年はこの崖に鳥の巣の観察に通っていた
巨大な鷹の親鳥が崖の中程にある洞穴から飛び立つのを発見したのがきっかけで
喜び勇んて自分の屋敷から鉤爪のついた綱を持ってきて
崖上の杉の木に結びつけ巣のあるだろうカ所にたらしたが
直径六尺程の輪に巻き取られた綱は途中で切れていて
崖下に輪の状態のまま投げ込んだら
切れ目の先ほぼ半分が見事に落ちて行き
鉤爪が斜面に幾つか生えている木にひっかかって回収不能となった
勝算とはその鉤爪のついた綱であった
綱の引っ掛った木は雛のいる木より二丈程下にあり
雛を掴んだ後その木にひっかかった綱にしがみつく算段であった
綱の下端から飛び降りれば怪我をする高さではなかった
「うおおおおおお」
少年は恐怖心を押し殺す為雄叫びをあげ直様雛に追いつき
右手を伸ばし掴むと懐に押し込み
先ずは綱のひっかかった木を両手で掴んだが落下の速度を殺す事は出来ず手を弾かれ更に落下した
「ひっ!」
崖上で見ていた少女は短く悲鳴をあげたが両手で口を抑え押し込めた
声をあげる事は少年の勇気を侮辱する行為と思えたからだった
始めから綱を使うつもりだった少年は落ち着いていた
綱を掴み全身を巻き付けるように密着させ落下の速度と力を殺していった
だがそれは容易な作業ではなく
摩擦により立派な羽織袴は破れ露わになった皮膚は擦り剥け綱を血で赤く染めた
「順調!順調!」
みるみる落下の速度は落ちていったが静止する迄には至らず綱の下端より更に少年は落ちていった
「問題なし!」
充分助かる少年はそう判断した
着地の瞬間全身の関節を使い衝撃を殺し更に横方向にいなし
崖底の涸れた川を体を丸め数回転げ回った後雛を庇ったのか不自然な体勢でやっと止まった
辺りは再び蝉の声だけの静寂となった
「もし!もし!返事を!返事をして!」
なかなか起き上がらない少年に少女は声の限り叫んだ
「何を騒いでいる!
俺はこの通り大健在だ!」
少年はむくりと起き上がり なんと今度は崖をよじ登り始めた
「どうしても まだ飛び降りたければ俺の上に落ちて来い!」
「そんなわけない!
あなた侍の子でしょう?
あなたには分からないでしょうけど侍にもあなたみたいな人がいると分かったからもう死のうとは思わない!
名前を!名前を教えて!」
「聞いてなんとする」
「あなたの名前を叫びたいの!
私の名前はリッカ!シラセ リッカ!」
少女の名前を聞いて少年は少し驚いたような表情を見せ少し微笑んだ
「俺の名前はシジマ アキヨリ!」




