十歳
「うふふ」
「なんだ!笑うような話ではないだろう」
「んっはいっ!はい 失礼しました
だってアキヨリ様」
「なんだ もったいぶらないで早く話せ」
「あなたが初めて私にかけた言葉覚えておいでですか?」
「あっ!…忘れてくれる訳にはいかないか?」
「とんでもない所から声がして
本当にびっくりしました
懐かしいですわ」
「千年鷹の巣を断崖に見つけて親鳥のいない時を見計らって覗いていたのだ」
「そうです私が崖から身を投げようとしたら下から怒鳴られて
びっくりして声の方を見たら男の子がぶら下がっているんですもの」
「あっけらかんと話すな!
あの時は話してくれかったから心にずっとひっかかっているのだ!」
「ごめんなさい だってあの時の気持ちは全部あなたが消してくれたのですもの」
「だから何故と言っているではないか」
「侍に嫁ぎたくなかったのです」
「何故そんなに侍を嫌う」
「私の家族は皆侍のせいで親も兄弟も住む家も声もなくしたのです
私の家に来た頃は皆ふとした事で怯え 親や兄弟を思い出しては泣いていたのです
その気持ちを訴える声も奪われて」
「ゲン達の事か」
「それに私は行商に行くと父に連れられ あなたの領地に来たのです
ところが途中許婚に会わせると告げられ それが侍の御曹子だなんて
父に裏切られた気がしたのです」
「今は?今も侍は嫌いか?」
「嫌いな侍と好きな侍がいます」
「そうか…それはいつからだ?」
「あなたに会ったあの時です
うふふうふふ」
「また思い出したな!言うなよ!
誰でも背伸びしたい時期があるのだ!」
「むすめ!そんな所で何をしておる!
年端もいかぬ小娘が命を粗末にするでない!」
十歳ほどだろうか
崖っぷちぎりぎりに歩を進め少しためらいを見せた少女は怒声を浴びせられ我に返った
声の主を探して崖下を覗くと自分と歳の頃の同じような少年が綱にかぎ爪をつけた物にぶら下がっている
「あなたには関係ありません!
あなたこそそんな所で何をしてるんです!
ばかじゃないんですか!」
自分と同じような子供に叱り諭されるように言われ少女は腹を立てていた
「俺をばかと言うか!」
「だってあなたばかじゃない
さっきから風に吹かれてくるくるずっと回ってるじゃない」
「うるさい!俺が何をしようとしているかも知らんくせに!」
「私の気持ちや生い立ちも知らないくせに!」
「気持ちや生い立ちで死ぬと言うか!大馬鹿もの!
俺が命というものを教えてやる!」
少年は体を振って半町はあろうかという崖に横っ飛びに飛び込んだ
少女は目を伏せたかったが少年の飛んだ先にあるものに目を奪われ一部始終を目撃する羽目になった
一羽の鶏程もある雛が崖から生えた木の枝にひっかかっていた
鳴き声も出さすぐったりしている
少年はそれを助けようとしている事を悟り少女は祈るように手を合わせた




