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六角の花   作者: フミ
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濁流

「私はなんて愚か者だろう自分の理想にアキヨリ様をあてはめてただけだった

十年も想い続けた人がそんな人だったなんて自分が可哀想になっただけなんだ

好きでやった訳じゃないって少し考えればすぐ分かったじゃない

あの方は私に教えてくれた

数珠の秘密を教えてくれた

ずっとずっと苦しんでいたんだ

行かせるものですか 人が人でなくなってしまう所になんか行かせるものですか

私を救って下さったあの人を今度は私が守ってみせる」


常識で考えたら鍛えぬかれた軍馬に女の足で追い付けるはずはない

しかしリッカは確信していた

必ず追い付ける



久しぶりのアクヤの速度にようやく慣れたアキヨリが呟く


「鎧も槍も置いてきてしまったな

どうせ出せと言っても捨てたと言うだろう

まあいいさ置いていったら見るたび俺の事を思い出してくれるかもしれない

女々しい女々しい!

はははっ代わりに寝巻きを着て来てしまった」


アキヨリの計算ではすでに味方の本陣にサナガ ジョスイの本隊が到着している頃だ

いやすでに戦闘は始まっているだろう

南蛮の戦艦で兵糧を運べば自分のやった足止めは大した効果は無い


一刻も無駄に出来ない

自分の失態で兄の盤石の策は崩れてしまったのだ


だが焦ったところで早く到着できるわけではない

アクヤが潰れてしまわないよう それだけを考えようとすればする程リッカの屋敷で目覚める前に見たイエナガの夢が思い出され

さっきまであんなに速く感じたアクヤの足が速度が止まっているようにさえ感じた


「焦るな焦るなアクヤが潰れたら俺は走れないんだからな」


深呼吸して自ら頬を一発掌で叩いて目をとじる

アキヨリは気持ちを切り替える時いつもそうしていた


そうすれば目をとじた時 星のような小さな光が飛び回り

父に教えられた星座を思い出し落ち着きを取り戻せるのだ

しかし今回は違ったものが目に浮かんだ

リッカの笑顔だった


「ええい女々しい!」


その時アクヤが急に速度を落とし目をとじていたアキヨリは落馬しそうになりアクヤを叱りつけようとしたが思い止まった


十日程前まで降り続いていた季節外れのドカ雪をここ数日の汗ばむ程の暖かさが急激に溶かしたのだろう

濁流が行く手を阻んでいたのだ

かけてあったであろう橋も跡形も無く流されていた

川幅は半町程もあり普段の倍になっているのではないだろうか


だがアクヤはアキヨリを振り返ったような素振りを見せると再び速度を上げ躊躇なく川に飛び込んで行った


「それでこそだ!アクヤ!」


アクヤは濁流に飲まれる事なく僅かずつではあるが着実に一歩一歩を進んでいった


川の中程まで進み渡り切るのは時間の問題かと思われた時

上流から長さ十八尺 直径一尺程の流木が流れて来た

一瞬色を失ったアキヨリだか どうやらこのまま行けばぶつかる事はなさそうだ

胸を撫で下ろしたその時川底の岩にでもぶつかったのか急激に進路を変えこちらに向かって来た


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