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六角の花   作者: フミ
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横恋慕

やっと暇、不安になる、何もする気が起きない、暇の螺旋から抜け出す日がやって来た

焼き上がった作品を目に出来るのだ


今度は右足を引きずりながらだが自分の足で立ち

窯のあちこちを見て回った


なるほど良く考えて作られているものだ

中の様子を覗く為の小さい穴に顔をくっつけていると

邪魔だとばかりにオタマの尻にどつかれた


「ごめん ちょっと離れて見てるよ」


徐々に言葉使いが侍のそれでは無くなりつつあるのを当人は気付いているだろうか


煉瓦が外され暗闇の中に白い作品達がぼんやり佇んでいるのが見えた


「ああ早く見たい早く早く」


地団駄を踏んでいると窯の中に入っていたリッカが茶入れを一つ取り出し手渡してくれた

泣き止まない駄々っ子に飴玉を与えるようなものだ


「おお まだ暖かいのだな

堅い陶器なのに少しも堅く感じない

なんと柔らかい白だ子犬の腹のようだ」


「うふふ 褒めて下さっているのでしょう?

お侍様なのにアキヨリ様は可愛らしい事ばかり仰います」


「褒めて貰ってるのだろうか?」


「もちろんですわ うふふうふふ」


「あはははあはははあははは」


合計百は超えるだろう作品達が並べられ

ひびが無いか欠けてはいないかなど検品されると十数個がはじかれ叩き割られ始めた


「ちょっと待ってくれよ割るくらいなら俺にくれよ」


「それは絶対に出来ません 不出来な品物を人様に渡したとあっては私達の誇りが傷付きます

アキヨリ様には先程の茶入れを差し上げます」


「本当に?ありがとう やったやった」


茶入れを貰ったのとこれからリッカと過ごす時間が増えるのだろうとの期待感に小躍りしていたのだが


「アキヨリ様大変心苦しいのですが

近日中に商人が買い付けに参ります

あなた様はお立場のあるお方

あらぬ災いに巻き込まれかねません

外出は商人が去るまでお控え下さい」


杖をつきながら外をウロウロし始めたアキヨリには残念な話だが

自分のせいで迷惑をかけることになりかねない

リッカと過ごせるならどこでも構わない

そんな風に思っていたのだが逆に朝の挨拶に来てくれるだけで一緒の時間など無くなってしまった


工房に籠ったきり食事の時以外は出て来ないようだ


「今しか出来ない物を作っております

作り終えましたらご褒美にアクヤちゃんに乗せて頂けますか?」


仕方ない居候があれこれ言える立場じゃない

弟子達総出の仕事らしく朝から晩までアクヤと過ごした

毛並みの手入れも朝から晩までしていたのでアクヤは艶っ艶になった


そんな日が十日も続いただろうかある朝普段目を覚ますよりずっと早い時間物音で目を覚ました


眠い目をこすり泥棒かそれともやっと商人が来たのかと

戸の隙間から外の様子を伺うと

リッカとゲンの後ろ姿が見えた


「こんな早くから仕事熱心だな」


そう思ったが二人の姿は工房とは逆の方に消えて行った


アキヨリは口をへの字に眉毛を四時四十分にしたまま動けなくなってしまった

以前もこんな事があったのを思い出した

乗馬を習い始めた頃 落馬して馬の後ろ足に頭を蹴られたのだ


「年頃の男女が同じ屋根の下にいるのだ不思議な事ではない

ただ俺が横恋慕しているだけじゃないか

迎えが来ればもうリッカとは関係なくなるんだ

俺は戻るんだ兄達の元に皆の元に戦場に」


言葉とは逆にアクヤを叩き起こし背に跨ると約束を破り無意識に屋敷を出てしまっていた


「横恋慕?ああそうだ やっぱり俺は…」



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